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1999年9月20日 BEAST BIND 魔獣の絆R.P.G 発売
本格ロマンホラーRPG
――エゴなくして我にあらず――
――愛なくして人にあらず――
それは日本最後のオリジナルTRPGだった。


第1話 虚無の去り音


GM・シナリオ作成

相原あきと

登場キャラクター

天涯(死神)/人間としての名前はまだ無い


死神である天涯は、ふと人間へと転生している事実に気が付く
死神として存在していた時には気が付かなかったモノ
それに気が付くという事は、同時に虚無を失うという事で……
――感情――
それを初めて教えてくれたのは
死すべき運命のキミだった……。

■序章■

GM:それではプレイを始めたいと思います。最初のセッションと言う事で、今日は1on1です。
天涯:1対1のリプレイか。主人公?
GM:今回の話では主人公です。1人しかいませんし……さぁ自己紹介して下さい。
天涯:名前は天涯(てんがい)、男の死神だ。真っ黒な和風の装束を着て鎌を持って命を狩っている。で、今回は死神が半魔になる所からスタートと聞いたので、人間の姿は考えていない。
GM:問題ありません。かりそめの名(人間社会での名前)をどうしたいか、などの話は先に聞いてあるのでシナリオに盛り込んであります。
天涯:わかった。最初は死神のまま参加だ。
GM:ではコレを読んで下さい。ルールブックを読んで作った、このキャンペーンにおける死神の定義です。



▼かつての死神
死神には生き物が発する"死の匂い"を感じる能力がある(死の気配を感じる――とも言う)。それによって死を与える存在を察知するのだ。そしてそれを運命と呼ぶものもいる。死神とは死の運命そのものだ。

▼死神はなぜ殺すか
死すべき人間がわかるから殺す。そこに理由は無い。またその事に関して考えもしない。ただし、死の匂いがしない者まで無闇に殺さない。死神は自動的でありそこに個々の意思は無いのだ。

▼虚無の定義
虚無とは何も無い事。死神が感情を得るという事は虚無を失う事。本当の死神は虚無であり自動的である。死神は虚無に満たされている。ゆえに感情というものを理解しない。感情がある……それはすなわち"虚無"が去った事である。

▼現在の死神
全ての死神より虚無が去り、いつの間にか死神達は人間へと転生していた。しかし、死神としての宿命まで消え去った訳ではない……死すべき運命の生命に死を与える。現在、虚無が去り感情を得た死神達は戸惑っている。自らを取り巻く社会と、自らが生まれ持った宿命に。



天涯:なるほど、死神としての力と宿命を持ったまま、人間になったのか……しかもいつの間にやら。
GM:死神達はなぜ自分達が人間に転生したのかわかりません。が、突如人間になった事実は現実です。
天涯:わかった。
GM:あ、あとこの設定は"あくまで今回のキャンペーン用"なので、公式設定ではありません。
天涯:了解……この設定に合わせると「虚無を失った喪失感」=「感情を得た事による戸惑い」と言った感じだな。
GM:そうです。そして今回のSAは「感情を手に入れる」です。
天涯:感情か……その方向でロールプレイしてみよう。
※なお天涯のキャラクターデータは最後に載せてあります。

■序章■

1995年1月1日、男は全力で走っていた。
友人達と飲みながら新年を迎えたのが、つい数十分前……その時には考えもつかなかった現実。
酔った勢いで路地裏で用を足そうと1人はぐれたのが間違いだった。
影から現れたようなその男は、闇色の装束を着て巨大な鎌を持っていた。
その異常さと命の危険を感じて、男はすぐさま命乞いをする。しかし、心のどこかで直感的に理解していた。
この先に待つ自分の運命を……。
GM:場面は除夜の鐘鳴り響く元旦です。 雪は降っていませんがそれなりに寒い夜。都心のとある路地裏で今、キミの目の前で尻餅を付きながら震えている男がいます――「た、たすけてくれ! お、お願いだ! たのむ!」
天涯:感傷無く見つめよう。今の私は死神なんだよな?
GM:死神です。手には巨大な鎌を持っています。
天涯:そして、目の前の男からは「死の匂い」がするわけだ……無言で鎌を振り上げよう。
GM:「なんでだ! なんで俺が殺されなきゃいけないんだ! 俺がいったい何をしたっていうんだ!?」
天涯:……お前からは死の匂いが感じられる……それだけだ。
GM:「な、なんだよその理由!?」
天涯:最期に言葉はあるか?
GM:「い、命だけは!?」
天涯:――鎌を振り下ろします。

――翌1月2日。都心某所にて心臓発作を起し路地裏にて死亡している男性が発見された……。

■第一章■

人間に転生している事に気が付いたのは、それから数日後の事だった。
服装もしっかりしていたし、内ポケットにはサイフといくらかのお金もあった。
もとの性格なのか食事も大して必要としなかった為、この数日を不自由に思った事は無い。
その日は、冬の異常気象…そう呼ばれる暖かな日だった。
GM:冬の異常気象と言われる暖かな日です。日時は1月3日。
天涯:じゃあ人間の姿で公園のベンチに座って考えていよう――なぜ、私は人間になっているのだろう……それとも、私は人間になったのだろうか……。
GM:いくら考えても結論は出ません。いや、そうやって疑問を感じるということ自体、天涯には初めての経験です。
天涯:そう…なぜ私は悩んでいるんだ……あの頃はそうやって考えるなんてしかなった。ただ、死の匂いを感じた生命を狩っていればよかった――立ち上がって水飲み場にでも行きます。頭を冷やします。
GM:では天涯が立ち上がって歩き出すと、何かにぶつかります――

ドンッ…ベチャッ!――「あ!?」

天涯:ぶつかった方を見よう。
GM:10歳ぐらいの女の子です。持っていたアイスが天涯にベットリとついてます。
天涯:表情無くじっと見ていよう。
GM:「えっと…ごめんなさい」
天涯:……何と言うか、気が付いたら転生していたから(ちなみに人間時の天涯の姿は20代後半の書生さんと言った感じです)、たぶん服もこの一着しかないはず。スラックスにワイシャツ。買い物もしてないし住む家も無い。
GM:住む家無いの?
天涯:ない。夜は死神に戻っているから不便に感じた事はないが……まぁそれ以外の時は廃ビルとかにいる事にする。
GM:わかりました……で、話を戻しますが少女が――「あ、ちゃんと拭くね! ハンカチ持ってるから! ああ、動かないで!」
天涯:たぶん、ハンカチで拭くと伸びるのだな(笑)
GM:伸びますね。
天涯:じゃあ人に接しられて動揺する自分がいる……「虚無を失った喪失感」で振っていいか?
GM:良いでしょう。感情に戸惑うとエゴ発生ですね。
天涯:(コロコロ)……成功――いや、いい、私に構うな。
GM:「ご、ごめんなさい……怒った?」――天涯は【感情】のエゴ「心の動揺を見せたく無い」でエゴ判定して下さい。
天涯は死神の【感情】「姿を見せたく無い」のエゴを「心の動揺を見せたく無い」に変更しています。
天涯:(コロコロ)……失敗。つまり動揺を隠さないわけか――いや、怒ってはいない。それより私に構うな。早く家に帰りなさい。
GM:「やっぱ……怒ってる……」
天涯:どうしたものか……少女が持っていたアイスを見て――コレを食べれば、もう私に構わないか?
GM:無理のある言い方だなぁ(笑)
天涯:死神に人付き合いを求めないで頂きたい。しかも、まだ半魔ですらないのに(笑)
GM:じゃあ少女は――「え?」――と不思議そうな顔をします。
天涯:このアイスを食べれば、キミは気が済むのだろう?
GM:「えっと……うん♪ ありがとう!」
天涯:よし――では近くのコンビニに行くか。
GM:「今日はあったかいから、アイスクリームをお年玉で買ったの! ちなみに大好きなリンゴ味だよ♪」
天涯:そうか――と、そっけなく。
そしてコンビニでリンゴ味のアイスを買い、再び公園へと戻ってくる天涯。
天涯:少女に渡そう――ほら、食べると良い。
GM:「ありがとう……お兄さん♪」
天涯:ああ、では私は行く――と、後ろから声をかけられると。
GM:そうだね(笑)――「待ってお兄さん!」
天涯:振り返ろう。
GM:「一緒に遊ぼう? わたし凧揚げがしたい」――正月ですので。
天涯:私は暇じゃないんだ。他の人間とやれ。
GM:「でも…わたし、友達いなくってやってくれる人がいないから……」
天涯:友達? それはなんだ?――と大真面目な顔で聞く。
GM:「なんだって言われても……じゃあ教えてあげるから、コレ持ってて」
天涯:持とう。アイスか?
GM:凧です(笑)
天涯:うお、持たされた!?
GM:少女は凧についた糸を手に走って行きます。
天涯:凧を放す。
少女に引っ張られるように凧が地面の上を引きずられていく――ズリズリズリズリ……
GM:少女が怒って戻ってきます――「駄目じゃない放しちゃ! ちゃんと一緒に走ってくれなきゃ!!」(笑)
天涯:そうなのか?
GM:また凧を渡されます――「今度はちゃんとやってね!」
天涯:じゃあ凧を受け取る。
GM:少女は走って行きます。
天涯:私も走ります……そして追い抜く(笑)
途中で持っていた凧が引っ張られ、少女が後ろで止まっている事に気が付く。
GM:少女が怒ってやって来ます――「なんでわたしを追い抜くのよ! ちゃんとタイミング良く放してくれなきゃ!」(笑)
天涯:そうなのか?
GM:と、こんなやり取りを(コロコロ)……6回繰り返して(笑)
天涯:私も馬鹿だな(笑)
GM:一応、【肉体】で判定して下さい。成功すれば凧が飛びます。
大空に凧が舞ったのは日も暮れようと赤く染まり出した頃だった。天涯の横では少女が楽しそうに笑っている。
天涯:何度も失敗したからな……私も思わず笑顔だ(笑)
GM:「あはは、やったねお兄さん!」
天涯:ああ。
GM:「あ、お兄さん笑ってる? やっと笑ったね♪」
天涯:笑った?――「虚無を失った喪失感」(コロコロ)……成功。戸惑おう――笑う? この私が? どうして?
GM:それは口に出して言っているの?
天涯:もちろんだ。エゴに流されているからな。
GM:「楽しいからでしょう? わたしも楽しかったよ♪」
天涯:楽しい?
  そんな馬鹿な……「心の動揺を見せたく無い」(コロコロ)……失敗。思いっきり動揺している(笑)
GM:と、さすがに日も暮れてきたので少女は凧を降ろして、片付けます。
天涯:もういいのか? やっとコツを掴んだと言うのに。
GM:「うん……そろそろ病院行く時間だから」
天涯:病院……たぶん天涯の知識では死の匂いが沢山ある場所だ(笑)
GM:「今日はありがとうお兄さん♪ わたしは美都(みと)って言うの、お兄さんの名前はなんて言うの?」
天涯:天涯(てんがい)だ。
GM:「変な名前」
天涯:お前も十分変な名前だと思うぞ。
GM:「あはは、学校で良く言われるよ」――ではここで絆の「芽生え」判定をして下さい。ボーナスで【感情】に+4あげます。
天涯:(コロコロ)……うん、【感情】に6で成功だ。では美都と――
GM:あ、今回は特別に「美都」では無く「心を許せる人間」として絆を得て下さい。
天涯:了解。
GM:あなたはまだ人間を固有名詞で判別していません。第一話特別のオールマイティーな絆です。虚無を完全に失った時点でエゴにも落ちず消滅します。
天涯:消滅?
GM:美都に取りたくなったら、再び美都で「芽生え」て下さい。
天涯:わかった……――美都、お前は明日もここに来るのか?
GM:「うん、いるよ♪」
天涯:そうか…なら明日もここで遊ぼう。
GM:「本当!? やった! 約束だよ!」
天涯:ああ……約束だ。
そう言って少女――美都は暗くなる街へと帰って行った。

■第二章■

1995年1月4日……その日はあいにくの曇り空で、公園に来る人々にも手袋をしている人間が多数存在していた。今日から仕事始めの大人も多いからか、昨日までに比べると公園に遊びに来ている子供達も少ない。
そんな中、傍らに買っておいたある物を置いて、天涯は昨日と同じベンチに座っていた。
GM:では次の日、1月4日です。公園にいる人達も減っています。とはいえ、学校はまだ始まらないので子供はいます。
天涯:私は昨日のベンチに座っているのだが、傍らには買っておいた凧がある。
GM:は? 凧?
天涯:そう……凧だ。私はなぜか自分の凧を買ったんだ。
GM:「あ! それって何? お兄さんの自前の凧なの!?」――美都がやってきます。喜んでいます。
天涯:喜んでいる美都を見て満足する。そんな自分に疑問を持ちつつ――
GM:と、言った所で天涯は【知性】のエゴ「生命に死を与える」を振って下さい。
天涯:なぜ急に?(コロコロ)……成功した。
GM:昨日は感じられなかったのですが、今日の美都からは"死の匂い"が感じられます。
天涯:!? それでエゴを……って、待て! 私は成功しているじゃないか!
GM:エゴに流され美都に死を与えて下さい。
天涯:思わず慣れた手つきで虚空から大鎌を取り出そうとして、笑顔で喜んでる美都に踏みとどまる。絆判定でエゴに流されるのを止める(コロコロ)……成功! 踏みとどまった! 大鎌は虚空に戻します。
GM:「どうしたの?」
天涯:……いや、なんでも無い……――凧を持とう。
GM:「いいよ、お兄さんも自分の持ってきたんでしょ? 今度はわたしがお兄さんの凧を持つから、お兄さんが上げなよ♪」
天涯:そうか? じゃあ頼む。
そして時間は過ぎていく。再び太陽はその姿を顰め、黄昏の時間がやってくる。
GM:美都は凧を片付け出します。今日も沢山遊びました――「あ〜楽しかったね♪」
天涯:ああ、そうだな……美都、キミはどこか…具合が悪いのか?
GM:「え?」――とここで気が付くんだが、いつの間にかこの公園に人気が無くなっています。まだ残っているのは天涯と美都だけだね。
天涯:「いや……なんとなくそう思っただけだ……」――病院とか言っていたしな。やはり死の匂いはまだするのだろう?
GM:します。一層強くなっています。
天涯:どうしたものか……無言でいよう。
GM:では美都が――「ねぇお兄さん、1つ頼んでもいいかな?」
天涯:なんだ?
GM:美都は封筒に入った手紙を渡してきます。すでに宛名と宛先は美都の字で書いてあります――「お兄さんなら頼めるの。お兄さんの名前と、何か適当な事を書いてポストに入れて欲しいの……」
天涯:その書かれている宛名と住所は?
GM:宛名は「藤川」とあり、あて先は新宿総合病院となっています。
天涯:入院でも宣告されているのか……と天涯はそこまで思わないな。そのまま受け取ろう。そういえば苗字を聞いていなかったな……まぁ自分も名前しか無いから疑問に思わないが(笑)
GM:「文通って言うの」
天涯:なんでこんな事をする?
GM:「それは……ううん、今度会った時に教えてあげる! それまでお楽しみね♪」
天涯:……わかった。この文通とやらを書こう。約束する。
GM:では美都はイタズラっぽく笑います。
天涯:そう、それは美都がイタズラをする、そういう時にする笑い方なんだ。私はこの2日でそこまで理解した。絆は伊達じゃない。しかし……死の匂いがするんだよな……。
GM:美都は約束してくれた事に満足して帰ろうとするのですが、途中で止まって振り向きます――「学校の友達はさ、お正月はお父さんやお母さんと一緒に遊ぶの。でも……わたしってお父さんもお母さんもいつも忙しくって……嬉しかった……ねぇ天涯さん、また明日も遊べるかな?」――天涯には感じられます、どうしようも無い"死の匂い"が。
天涯:……ああ、明日も遊ぼう。また明日だ。
GM:そうして美都が帰っていくのですが……天涯は<発見>か【感情】で判定して下さい。
天涯:(コロコロ)……【感情】で成功。
GM:公園の入り口にある木陰に、キミの本性と似たような格好の女性が立っている。
天涯:死…神?
GM:美都は気が付いていません。一般人には気が付かれない<無貌の住人>を使っています。天涯は絆判定して下さい。成功したら美都が心配です。
天涯:(コロコロ)……成功した――美都! 送っていく。
GM:「え? いいよ、1人で帰れるよ?」――美都は付いて来られると困るので絆判定を要求します。
天涯:困る? なぜだ(コロコロ)……く、成功してしまった。
GM:では大人しく見送って下さい。
天涯:駄目だ。エゴの「虚無を失った喪失感」で打ち消す(コロコロ)……成功。私は自分で自分の行動を不思議に思う。なぜだ……どうして私は……と心の中で繰り返しながら美都の要求を無視――「いや、途中まで一緒に行く。そしてその文通の内容について少し一緒に考えてくれ」
GM:では美都は不思議そうにしますが――「じゃあ少しだけ送ってもらうね♪」――そして公園を出る時、木陰でボソリと女死神が――『死の香りがする……』
天涯:彼女は生きている――呟き返そう。そして言葉を呟くと共に疑問に思う――

――なぜ、私はそんな事を思う……

GM:天涯の耳には入っていないと思いますが、横では美都が歩きながら話し続けます――「駄目だよ? 手紙の内容は自分で考え無きゃ〜」

――美都からは"死の匂い"がした……それならば、その生命には死を与えなければならない……

「手紙なんだし気持ちを込めて書いてくれなきゃね!」

――昔の自分なら何も疑問に思わなかった、死を与える事に対して……いや、今でも死を与える事に対して疑問はない――

「お手紙届いたらきっと驚くだろうなぁ」

――そう、この目の前の少女……美都だから疑問に思うのだ……どうして? なぜ? いくら考えても結論は出ない――

「あはは、今から楽しみだなぁ♪」

――そうだ、あの頃はこうじゃなかった……虚無が存在した頃は、こんな無駄な思案に思い悩まされる事はなかった……どうしたら……

――死。そう……死を与える事を続ければあの頃に戻れるのではないだろうか……虚無が戻って来てくれれば、この疑問も無くなる……

GM:って、良くもまぁそんな独白がスラスラと。
天涯:今回は1人PLなので遠慮は無い。語るのは好きなんだ。
GM:では死を与え続ければ虚無が戻るって思うならエゴの「生命に死を与える」を振って下さい。
天涯:く…アーキのコラムに書いてある設定に繋げただけなのに(笑)(コロコロ)……成功。無表情に美都を見る。
GM:ではここで天涯は気が付きます。横で喋っていた美都の動きが止まっている事に。
天涯:なに!?
GM:美都だけではありません。周囲の木々も、風も、雑音さえも……動いているのは天涯だけです。死神の業<時間停止>ですが、こっちは天涯を同類と見ているので効果を受けなくて良いです。
天涯:良い演出だ。死神空間とでも言おう(笑)
GM:そして時の止まった世界で、後ろからさっきの女性死神に声をかけられます――「死を与えないのか?」
天涯:振り返ろう。
GM:「その生命からは死の匂いが感じられる……それはあなたも一緒のはず」
天涯:美都の絆でさっきのエゴを打ち消す(コロコロ)……成功――「私もその意見には賛成だ。だが、そうしてはならないと言う自分もいる……」――美都を抱えて逃げます。
GM:では無理には追いません。ただ女性死神は――「不思議なことを言う。あなたは死神なのか……?」

■第三章■

夕暮れも終ろうとしている……これからは宵闇の時間。
最後の瞬きとして真っ赤な光が風景を染め上げる。
天涯は美都を連れて人気の無い神社にまで逃げてきていた。
GM:息を切らせながら――「お、お兄さん? なんでこんなに……急いで走るの?」
天涯:いや……。
GM:「まるで……まるで逃げてるみたいに……」――神社まで逃げてきました。境内の前です。
天涯:しゃがみ、美都に視線を合わせて言おう――驚かずに聞いてくれるか?
GM:美都は不思議な顔をします。
天涯:私は……死神なんだ。
GM:「しに…がみ…?」
天涯:私は人間の姿のまま続けます――そして、死神たる私には他人の死が見えるんだ。そしてそれが解った人物に、死を与えるのが死神だ。
GM:じゃあ頭に疑問符を浮かべて聞いていた美都が――「あははっ、変なの〜〜♪」
天涯:変…なのか?
GM:「それでそれで?」――美都は冗談と受け取って面白がって聞いてきます。
天涯:あ、ああ……死期が、見えたんだ…キミに。
GM:「私?」
天涯:ああ……。
GM:「じゃあお兄さんはわたしに死を与えるの?」
天涯:いや、それは……――言葉に迷うな。
GM:「ん〜〜……まぁいいや、ねぇお兄さん。さっきの文通の内容だけど……そういう話で良いんじゃないかな? きっと喜ぶよ♪」
天涯:死神の話をか?
GM:「うん♪」――美都は笑顔で頷きます。しかし天涯には解る、その纏った死の匂いが限界まで高まっていくのを……。

――私は……死神……死神は死を与えなければならない……それが当たり前……どうしてためらう……――

GM:美都は笑顔です。
天涯:……わかった――と、ここで自主的にエゴ判定「生命に死を与えたい」(コロコロ)……失敗。
GM:でも自主的に振ったのなら絆で止める事は不可能です。
天涯:ああ、わかっている……。
GM:「どうしたの? あ、もうこんな時間だ! 早く病院行かないと……」――美都は帰ろうとします――「じゃあね、お兄さん!」
天涯:ああ……美都、これでお別れだ。最期に言葉はあるかい?
GM:「言葉?……うん、また明日ね♪」――美都はそう言って走り出します。
天涯:私に背を向けた瞬間――死神化して一撃で斬る。
GM:では美都は――トサッ――と軽い音を立てて神社の鳥居の真下当たりで死亡します。
天涯:死神の大鎌は死を与える時に外傷を残さないんだ。だから死神に殺された相手は病死だったり心臓麻痺だったりする。
GM:じゃあ美都は過労で死にます。実はかなりの苦労人だったのです。そして夕日が沈む最後に瞬間に、≪神出鬼没≫で女性死神が傍に現れます。
天涯:大鎌をカランッ……と落として――死の匂いがした……だから私は死を与えた……。
GM:「そうね……私達は死神だから」――女性は無表情です。
天涯:そうだ、私は死神だ……。

GM:女性死神がキミに聞きます――「では……なぜあなたは涙を流している?」
天涯:涙!? そう……私は気が付かないうちに泣いているんだ。ポロポロと頬を伝って美都に流れ落ちる――これは?
GM:「気が付いて…いなかったのか?」
天涯:私はそのセリフと共に、胸の奥が締め付けられるほどの苦しさを覚えるんだ……――これはなんだ? 私はどうしてしまったんだ……おい、お前。
GM:「私の名は黄泉(よみ)だ」
天涯:黄泉…教えてくれ、この気持ちはなんだ!? どうして私は苦しまなければならない! 虚無は……虚無はどこへ行ったんだ!?
GM:「虚無は去った……だが、死神として私達が存在する限り、いつかきっと帰ってくる……それと、私にはあなたが何故苦しいと感じるのか理解できない。そしてそれを理解しようとも思わない」
天涯:じゃあその死神……黄泉の振る舞いにかつての自分を重ねます。たぶん彼女は私よりずっと死神なんだろう……それを思うと共に、自分の存在が揺らぎます――私は……私はじゃあ……。
GM:「死の匂いは去った……」――夕日が沈むと共に、彼女は宵闇の中へスゥっと消えて行きます。残されたのは天涯と横たわる美都だけです。
天涯:しばらく立ち尽くしますが、やがて人間の姿になります。美都という唯一の絆を失った私は、呆然となるのですが……ふと、ポケットに入った手紙に気が付きます。
GM:そう、それは美都から預かった文通の手紙。
天涯:――書こう。美都と約束したからな……。

■第四章■

1995年も2月に入り、美都の死より1カ月が経っていた。
不思議な事に文通は続いている。
相手の名前は藤川美古都(ふじかわ みこと)、新宿総合病院に勤めている22歳の女性らしい。
GM:さて、時間は飛び2月に入ります。
天涯:私はあの時から死神化しなくなった。死の匂いを感じても何もしない。時々エゴに流されそうになるけど強引に止める――私はもう……死神の力を使わない……。
GM:ではそんな感じで……って、死神の時間が無いなら普段は何をしているの?
天涯:ひたすらぼ〜〜っとしてる。廃ビルの屋上でずっと空を眺めていたり。あとは文通。文通は続いている……美都と話したように、死神とか死についてとかそんな内容。
GM:えらい暗い文通だな。
天涯:死神の話題なんて限られるのだよ。
GM:では今日も手紙が帰ってきます。内容は――『……最近は死について考えます。死んだら人間はどうなるのだろうと……。私は死を怖いとは思いません、ただ私が死んだらきっと家族が悲しむ、それだけが心配です』
天涯:藤川さんも暗い人だな。
GM:いや、キミの話題に合わせて書いているとは思わないのか?
天涯:……たぶん思わない。普通だと感じる――『死を怖くないと言う……そんなあなたを私は怖いと思います。私は怖い。死が怖い』
GM:ではそんな文通が繰り返されるなか、次の手紙には文末にこう書いてあった――『……天涯さん、もし宜しければ会って頂けないでしょうか?』――と。もちろん会う気があれば……って事で日時と場所が指定してある。
天涯:藤川さんに会う……か。
GM:天涯は「心を許せる人間」で絆を持っていますね。天涯にとって藤川さんは心を許せる人間になっていませんか?
天涯:ああ、そう生きてくる絆なのか……そうだな。美都が死んで、私と世界を繋げる絆は藤川さんだけだ。
GM:では絆判定して下さい。
天涯:(コロコロ)……成功――新宿総合病院だったな……会いに、行ってみるか。

■第五章■

その日は雨が降っていた。人通りの無い住宅街を幼稚園児ぐらいの子供を連れた母親が歩いている。
片手に買い物袋を提げ、もう片方で傘を持ち、雨にはしゃぐ子供が濡れないように気を使っている。
その母親は毎日忙しく働いていた。夫が早く病死したため、子供を育てる為に働くしかなかったからだ。
そんなわけで、体の調子が悪いことは知っていたが病院に行かないでいた……。
なんとかなる。そう思っていたから……――
天涯:じゃあ病院に行くか。
GM:外は雨降りです。
天涯:傘を差して行く。
GM:住宅街に入った所で、母親と子供が歩いてきます。そして天涯は気が付く……母親の方から"死の匂い"がするのを……。
天涯:別に……そのまますれ違う。
GM:「おかーさん、今日の夕飯はー?」「それは帰ってからのお楽しみね?」
天涯:じゃあ少し歩いてから――藤川さん、私はまた今日も死を与える事ができなかった……死を与え続けなければ、虚無は帰ってこないと言うのに……私はまた……。
GM:と、天涯の後ろでドサリという音がします。
天涯:振り返る。
GM:振り返ると……奴がいます。倒れた母親の前に女性死神――黄泉が。
天涯:……黄泉。
GM:子供は黄泉に気が付かずに母親に――「お母さん、お母さん!?」
天涯:ぼうっと見つめていよう。そして死んだ美都をその母親に、そこに立つ黄泉を自分に重ねる。そして【感情】のエゴ「心の動揺を見せたく無い」(コロコロ)……失敗! しかし自分からエゴを振ったので流されます――震えだす。
GM:黄泉はいつの間にかキミの横に存在して――「なぜ、死を与えない……前は与えていただろう」
天涯:……私は怖いんだ。死を与える事が……死神としての力を振るうことが……。
GM:「そうか……」――黄泉はそれだけ言い消えていきます。
天涯:私はもう……死神では無いのかもしれない……。
その日、新宿総合病院の待合ホールで藤川と会う予定だったが、約束の時間になっても彼女は現れなかった。後日、天涯の元に手紙が届いた。
――『この前はごめんなさい。急に体調を崩してしまいまして……今度はちゃんと会えると思います。場所と時間は……』――

■第六章■

新宿総合病院、都内でも有数の大病院であり藤川美古都が働いている職場だ。
ロビーでの待ち合わせ時間は正午きっかり。しかし、天涯がやってきてからすでに3時間が経過していた。
GM:では再び新宿総合病院ですが……3時間経っても藤川さんはやってきません。
天涯:またか……前回はこのまま帰ってしまったが、さすがに他の看護士に聞くか。
GM:「藤川さん? そんな看護士っていたかしら?」「研修生かな……ちょっと調べてみますね」
天涯:待ってます。
GM:では少し経って――「う〜ん、ウチに藤川なんて子いませんよ?」
天涯:いない? でも確かに……。
GM:と、ここで別の看護士が――「もしかして……西棟の310号室に入院している藤川さんの事ですか? 駄目ですよ、彼女は家族以外の方とは面会謝絶なんですから」
天涯:面会謝絶?
その看護士の話によれば、藤川という女性は気管支の病気を先天性で患っており、この病院に長いこと入院しているとの事だった。
天涯:入院……ですか?
GM:「そうなのよ。両親はかなりのお金持ちらしいんだけど、そのせいでいつも世界中を飛び回っているんですって。だから面会に来るのは姉妹(きょうだい)がせいぜい……あの子も可哀そうよね。いい子なのに」
天涯:そう……だったのですか……。
GM:「あ、もしかしてあなた! 編集さん?」
天涯:疑問に思うが否定はしない――え、ええ(笑)
GM:「ああやっぱり! 美古都ちゃんが掲載している万年怪奇の人? 驚いたでしょう、『不死川京介』なんて男みたいなペンネームで投稿してるから……あなたあの子の事、男だと思ってたでしょう?」
天涯:黙っている。
GM:「もしかして至急の打ち合わせ?」
天涯:ええ、そうです。
GM:「本当は駄目なんだけど……雑誌の投稿はあの子が唯一頑張っている事だし、今回は特別にしておきます。ただし時間は30分、それ以上は駄目ですからね」
天涯:ああ、ありがとう――その部屋に向かおう。

■第七章■

西棟310号室。
ネームプレートには確かに『藤川美古都』と書いてあった。個室のようで他に名前は無い。
GM:では病室の前に付きました。
天涯:ドアをノック――トントンッ。
GM:返事は無い。
天涯:そうっと開けよう。
GM:1人の女性がベッドに寝ています。二十歳ぐらいで、病的に白い顔をした黒髪の女性です。
天涯:ベッドに近づくか。
GM:と……スッと彼女が目を開き顔を向けます。
天涯:……あ。
GM:「……天涯さん……ですよね? はじめまして、藤川美古都です」――病院独特の入院服のまま、彼女がベッドから上半身を起します。
天涯:ああ、こちらも初めまして……。
GM:天涯は見ます。藤川さんのベッドの脇に、かなり使い込まれた呼吸器があります。
天涯:そういえば気管支の病気とか言っていたな。黙っていよう。
GM:「あの……嘘を付いてしまってゴメンナサイ……私、看護婦なんかじゃないんです――あ、見ればわかりますね」
天涯:でも小説家だと……さっき聞いたが。
GM:「小説家だなんてそんな……ちょっとした雑誌に投稿記事を載せてもらっているだけです……」
天涯:そうか。
GM:「でも……いつかは有名な小説家になりたいなぁって思っているんです。無理かもしれませんけど……」
天涯:無理なのか?
GM:「う〜ん……夢ですね。そうなりたいって思えるものがあれば、明日を笑って迎えられるでしょう?」
天涯:そういうものなのかな。解らないが……。
GM:「そういうものですよ♪ あ、そう言えば、天涯さんからのお手紙の話とか……結構反響が良いって、この前電話で担当さんから言われましたよ?」
天涯:私の話?
GM:「あ、ゴメンナサイ! 勝手に記事に使ってはまずかったですよね、やっぱり……」
天涯:絆判定(コロコロ)……成功――いや、気にしないで良い。私も…誰かに聞いて欲しくて書いていただけだから……――そして、そう呟いた自分に驚き気が付く――そうか、私はもっと話したかったんだな……と。今は亡き美都ともっと話していたかったんだ……。
GM:では天涯が自分の思考に入っているのを引き戻すように、藤川さんが――「あの、そこにあるリンゴを取ってくれませんか? せっかくだから私が剥きます」
天涯:あ、ああ、わかった。
GM:山盛りのリンゴがあるのですが、その棚には写真立てがあります。
天涯:写真?
GM:それは4人家族の写真です。父親と母親、そして藤川さんと妹の4人。
天涯:妹……まさか――ショックを受けよう。
GM:「リンゴ……美都の――妹の大好物だったんです。だから、どうしてもそうやって山にしておきたくって……」
天涯:美都との記憶が蘇る――

――ドンッ…ベチャッ!――「あ!?……えっと…ごめんなさい」

――「今日はあったかいから、アイスクリームをお年玉で買ったの! ちなみに大好きなリンゴ味だよ♪」

――「あ、お兄さん笑ってる? やっと笑ったね♪」

――「お兄さんなら頼めるの。お兄さんの名前と、何か適当な事を書いてポストに入れて欲しいの……」

――「……嬉しかった……ねぇ天涯さん、また明日も遊べるかな?」

――「言葉?……うん、また明日ね♪」

天涯:立ち尽くそう。その棚の前で写真を見つめたまま……。「心の動揺を見せたく無い」(コロコロ)……成功。動揺を見せる。我慢できず自然とこみ上げる物が……
GM:と、藤川さんが――「あ、お皿も無いと困りますよね? 私ちょっと借りて来ますね」
天涯:あ、いや、それは私が代わりに行こう。キミはここで待っていてくれ――そう言って急ぎ部屋を出る。

■第八章■

突然の繋がり……。
病室を出ると共に天涯は手で目を押さえていた。そうしなければ、全て流れ出しそうだったから……。
落ち着く為にも今は、別のことを考える。まずはお皿だ――
天涯:感情に戸惑いつつ、まずはお皿を取りに行きます。
GM:そうやって廊下を歩くキミだが、追い討ちが来ます。【感情】か<発見>をどうぞ。
天涯:(コロコロ)……成功はした。
GM:廊下の奥、とある病室に入っていく黄泉を見ます。
天涯:あれは……。
GM:少しすると黄泉が部屋から出て来る。それと同時に一般人が飛び出して来て、医者を急いで呼んで来たりする。
天涯:たしかに……死神だしな。
GM:(コロコロ)……と、黄泉もキミに気が付いてやってきます。
天涯:お前は……本当に死神だな。
GM:「そこに死の気配がある限り……私は死を与え続ける」
天涯:……つまらない生き方だ。
GM:「つまらない? どうしてそう思うのか私には理解できない……それに、私達は死神であって生命とは違う。"生き方"とは不思議な表現をする」
天涯:死神は死神……そういう事か。
GM:何を当たり前な? という顔をして、再び次の死を与えに別の部屋へ向かいます。天涯は「心の許せる人間」で絆判定をして下さい。
天涯:藤川さんの部屋に行くのか?
GM:違います。まったく関係ない赤の他人です。でも、その部屋の住人も美都やあなたのような関係にある存在がいるでしょう。死はそんな関係を断絶するのですから、絆判定に成功すれば静止して下さい。
天涯:(コロコロ)……はっはっはっ、失敗だ(笑) 他人はどうでもいいらしい。
GM:では黄泉はそうやって別の部屋を回っていきます。
天涯:私にはもう関係ない――皿を持って病室へ戻ろう。

■第九章■

お皿を貰って部屋に戻ってくると、藤川美古都は慣れた手つきでリンゴを剥いてくれた。
人間になっていると気が付いてからいくらか食事は取って来たが、美味しいと感じたのは初めてだった。
GM:リンゴは美味しいです。食べ終わりました。
天涯:では食後にお茶でも飲みながら、普通にPLが疑問に思っていた事を聞こう――さっき言っていた小説家の話だが……どうして男の名前なんだ?
GM:「私……こんな病気ですから、コラムに乗る時ぐらいまったくの別人でも良いかなって……私って編集さんとも直接会った事無いんです」――ちなみに雑誌の名前は『万年怪奇』です。
天涯:謎解消。
GM:「そういえば天涯さんって、よくこの部屋に入れましたね?」
天涯:ん? ああ、誰もいなかったからな。
GM:「じゃあ勝手に入ってきちゃったんですか?……あははっ、おかしい♪」
天涯:その笑いは美都とかぶる! まぁ姉妹なんだから似ていて当たり前なんだが(笑)
GM:そう思うなら「感情を見せたく無い」で振ってくれ。
天涯:自主的に「虚無を失った喪失感」(コロコロ)……成功、(コロコロ)……「感情を見せたく無い」は失敗。悲しさがこみ上げてきて少し暗くなる。
GM:「どうしました?」
天涯:いや……なんでもない。ただ、笑い顔が美都に良く似ていると思ってね。
GM:「美都の事……覚えていてくれているんですね……」
天涯:忘れられるわけがない。
GM:「ありがとうございます。私、妹に迷惑ばかりかけてて……お父さんとお母さんは日本にいる事の方が少なかったし、毎日夕方には私を訪ねてくるのがあの子の日課になってたから、学校の友達と遊ぶ暇もなかったんだと思います……」
天涯:………………。
GM:「天涯さんには感謝してます。あの子、過労で倒れる前に私の病室に来て話してくれたんです。天涯さんっていう楽しいお兄さんと遊んだって……あの子、きっと天国に行っても天涯さんの事忘れてないと思います」
天涯:感謝するのは私の方だ……美都には沢山教えてもらった。それなのに私は……あの子に……――
GM:「それは私も同じです……私は、あの子に何もしてあげられなかった…苦労ばかりかけて……。なんで、美都が死ななければならなかったんでしょうね……私なんかじゃなくて……」
天涯:何故……か。私にも解らない。どうして突然、生命から死の匂いがするのか。もしかしたら、そこに理由は無いのかもしれない。
GM:「そういえば、文通でもそんな表現していましたね……でも、人が理由も無く死ぬなんて……そんな考え方好きになれないです。生きている事に理由があるように、死ぬ事にも理由があるんだって……私はそう思いたい」
天涯:死に……理由か。昔が……懐かしい――

――「た、たすけてくれ! お、お願いだ! たのむ!」
――「なんでだ! なんで俺が殺されなきゃいけないんだ! 俺がいったい何をしたっていうんだ!?」
――その男に自分はなんて言っただろう……そうだ。私は確かこう言った……
――「……お前からは死の匂いが感じられる……それだけだ」――と。

天涯:昔を思い出すも、今はその頃の自分がなぜ疑問に思わなかったか不思議でならない。「虚無を失った喪失感」(コロコロ)……成功。黄泉が羨ましい……どうして私は……。
GM:と、キミが迷っていると藤川美古都が咳き込みだします。そして手探りで呼吸器のマスクを口に当てる。
天涯:藤川…さん?
GM:それから数分は息が荒かったが、やっと収まりマスクを外すと――「私、きっともう長く無いんだと思います。咳の間隔も最近、急に短くなってきたし……もしかして、美都が寂しいって呼んでいるのかもしれませんね?」――イタズラっぽく笑います。
天涯:「心の動揺を見せたく無い」(コロコロ)……失敗! でも自主的に――駄目だ!――と叫ぶ。その笑顔に美都が重なって……そして私は感じるんだ。そうだろうGM?
GM:そう、その時です。今まで何も感じなかったくせに急にあの匂いが……"死の匂い"が藤川美古都からして来ます。
天涯:く……そんな……。
GM:「せめて美都が寂しく無いように、早く向こうに行くべきだって神様が言ってくれているのかも……」
天涯:「生命に死を与えたい」(コロコロ)……成功。「心を許せる人間」で絆判定(コロコロ)……成功。エゴを止めた――駄目だ! 生きる事を考えるんだ! 「死」に肯定的ではいけない!!
GM:「ごめんなさい。久しぶりに沢山しゃべったら疲れてしまって……少し横になってもいいですか?」
天涯:ああ、わかった……でも、約束して欲しい。生きるという事を。
GM:美古都はベッドに横になると、その言葉に返事をするかしないかって所でスースーと眠ってしまいます。
天涯:それと共に外には雨が降り出し、電気のついてなかった室内が暗くなる……そして一条の雷が鳴り響き、病室に彼女でも私でもない影法師が伸びる――「匂いを嗅ぎ付けて来たか……黄泉」

■第十章■

そこには女性の死神が立っていた。
いつの間に現れたのか……いや、死神にそれを聞く意味はない。
いつだって死神は神出鬼没なのだ……生命の傍らに死が常に存在するように。死神は常に誰の隣人でもありえるのだ。
GM:「濃密な死の匂い……」
天涯:やめろ黄泉。この人に死を与えるな。
GM:「死すべき運命(さだめ)に死を与える……それが、死神の存在意義」
天涯:命を断つ事だけが……死の匂いに対する結論なのか? その人が生きようと考えるなら、死の匂いは消えるんじゃないのか?
GM:「そんな事はありえない」
天涯:お前は試したのか? 死を与える以外の方法を……。
GM:「無駄な事だ……死の匂いがした、その生命に死を与える……私たち死神はそうする為だけに存在する」
天涯:死を与える事……それ以外は死神にとって全て無駄な事だと言うのか?
GM:「無論だ……それ以外、私達には何も無い」
天涯:違う! 無駄じゃない……少なくとも、生きることについて考えるのは無駄な事ではない。私達死神にもできるはずだ……死を与える以外の事が!
GM:「その必要は無い」
天涯:黄泉!
GM:「私達は自動的なのだ。思考も判断もいらない。ゆえに疑問も苦悩も発生しない。ただ死を与える存在……死神とはそういうものだ……」
天涯:なぜ…わかってくれない……。
GM:「あなたがその生命に死を与えないと言うのなら……私が代わりに死を与える。そこをどいて」
天涯:私は動かず黄泉へ言うんだ――1人ぐらい…死を与えない死神がいても良い。
GM:「死を与えないと言うのなら……私はあなたを死神だと認めない……そんな中途半端な存在を、私は同胞と思うわけにはいかない」
天涯:半端モノ……か。確かにそうだ。それなら私も死神である必要は無い。私はただ彼女の……いや、彼女達の笑顔が見たい。それだけなんだから――美都と藤川さんの笑顔が脳裏に蘇る。それは今や、自分の中での一番大切な絆なんだ。
GM:絆判定どうぞ。
天涯:(コロコロ)……成功。愛を取得!
GM:「……一つだけ聞きたい。その者はお前にとって何なんだ?」
天涯:私が私でいる為の枷……彼女達がいるから、私は私として生きていられる。
GM:「そうか……では話は終わりだ。私は生命に死を与える」
天涯:残念だ……私は彼女に笑顔を与えたい……キミには死んでもらう――そうして私は死神化だ!
GM:「邪魔をする気か」
天涯:場所を変えるぞ。

■第十一章■

雨の降り出した病院の屋上。
人気の無い暗雲の下で2人の死神が対峙していた。
時折鳴り響く雷の音だけが、静寂を破って黒装束の2人を照らしだす。
GM:戦闘に入ります――「死神は死の匂いがする生命にのみ死を与える。それ以外には死を与えない……それが死神だ。だが、唯一の例外がある……わかるな?」
天涯:死を与える時……その邪魔をするものには容赦しない。
GM:「もう一度聞く。邪魔立てする気か?」
天涯:自分が自分である為に……"八絃(はっこう)"!!――大鎌を虚空から出現させる!
GM:大鎌に名前か!(笑)
天涯:好きだから。
GM:「いいだろう、私が相手だ……"氷雨比良逆"!!」――細身の大鎌が出現します。イニシアを振りましょうか。
◆1ラウンド◆
[1]天涯(7)
[2]黄泉(4)
天涯:雷が鳴ると共に<影斬り>! 黄泉の後ろに出現して(コロコロ)……ダメージは通常属性の12点――全てを斬り裂け!
GM:では天涯が斬り付けると同時に再び雷が鳴る。その瞬間こちらも<影斬り>! 天涯の後ろから(コロコロ)……14点の冷気――「忘れるな……私も死神、手の内はわかっている」
天涯:くッ…!
GM:背後から離れて鎌を構え直します。
天涯:斬られた所をチラリと見て、私も鎌を握り直す――結局、この力を使う事になるのだな……死を恐怖し、もう二度と死神の力を振るわぬと思っていたのに……。
GM:「生命に死を与える為、それは必要な事だからだ……」
◆2ラウンド◆
[1]天涯(10)
[2]黄泉(6)
天涯:そう……なのかもしれない――<死の鎌使い>(コロコロ)……達成値は6。
GM:(コロコロ)……<影のように>なって回避しました――「だが、あなた死神では無い……私がここで死を与える」
天涯:ならば私は、お前に生を与えよう。そうすれば、お前にも解る。
GM:「戯言だ」――<死の鎌使い>(コロコロ)……達成値9。
天涯:避けない。ダメージを下さい。
GM:(コロコロ)……14点です。
天涯:仮初めの死を迎えます。
◆3ラウンド◆
[1]天涯(11)
[2]黄泉(10)
GM:「生などと……」――倒れた天涯に背を向けます。
天涯:自分で復活する。使うエゴは「生命に死を与える」(コロコロ)……成功――「怖いのか? 生きるという事が……」――立ち上がります。
GM:「怖い? 無意味な問答だ。死神は生きても死んでもいない」――ちゃんと暴走判定して下さい。
天涯:(コロコロ)……一番高いエゴ判定「虚無を失った喪失感」(コロコロ)……成功。だがこのままじゃ流されるので「心を許せる人」で絆判定(コロコロ)……うん、エゴを止めた。
GM:「天涯……」
天涯:そのまま死神化。どんどん死神としての力を取り戻して行く私……感情が薄れ虚無が戻ってくるような気配……。
GM:「……なぜ、そこまで足掻く」――振り返ります。そのまま絆判定の呼びかけです。絆判定して下さい。
天涯:絆判定(コロコロ)……成功、愛を得て――……約束したからだ。
GM:「約束?」
天涯:……そうだ。約束だ。
◆4ラウンド◆
[1]天涯(5)、黄泉(5)
GM:PL優先で天涯からです。
天涯:彼女の明日を守るんだ……彼女の明日の笑顔を……
GM:「あの生命に明日は無い」
天涯:だから私は――<死の鎌使い>(コロコロ)……罪を使って【肉体】の一時的上昇、9命中。
GM:(コロコロ)……それは命中する。
天涯:(コロコロ)……ダメージは9点――だから私は…この力を振るう!!!
GM:黄泉がよろめきます。たたらを踏んで片膝を着く。
天涯:鎌を昔の動きで振り回し……ビシッっと決めて――次で終わりだ。
GM:黄泉は斬られた自分を見下ろし――「優先すべきは死を与える事……ここで私が消えるわけにはいかない……」<時間停止>(コロコロ)……8成功。今回は天涯も止まります。
天涯:ではダメージは何点ですか?
GM:いや、ダメージはいかない。何事も無く天涯は1分後に気が付きます。もっとも天涯には黄泉が消えたようにしか写らないけどね。
天涯:周囲に気を配って――どこだ……黄泉?
気が付けば黄泉の気配はなくなっていた。
雨が降る薄暗い屋上に、稲光と雷音だけが1人取り残された天涯を浮き上がらせる。

■第十二章■

新宿総合病院西棟310号室……ネームプレートには『藤川美古都』と書いてある。
そこで彼女は穏やかな顔のまま永遠の眠りについていた。
もう、この病室に漂っていた"あの"匂いはしない。
GM:病室に戻ると藤川さんが死んでいます。穏やかな顔のまま眠るように。シナリオ的には4ラウンド目に入ったらこう行動する予定でした。
天涯:約束……守れなかったな……――呟く。
GM:すでに黄泉はいません。死を与えて去ったのでしょう。
天涯:私はキミに……生きていて欲しかった。笑顔で……明日を迎えて欲しかった。
GM:さっきまでは気が付かなかったのですが、ベッドに敷かれたマットの下に、何か書類のようなモノが挟まれています。大きめの封筒のようです。
天涯:手に持ってみる。中を見るぞ。
GM:それは書きかけの原稿ですね。名前はペンネームの『不死川京介』となっています。
天涯:彼女の言葉を思い出そう。夢について――

――「そうなりたいって思えるものがあれば、明日を笑って迎えられるでしょう?」

天涯:キミの笑顔を……明日を……守りたかった……――自然と涙が流れます。ただし、今回は片目から一筋だけ。
GM:と、キミの手の封筒からバサバサと原稿以外の紙束が零れ落ちます。それはキミとの文通の手紙、そして数枚の家族写真だ。言うなれば彼女の宝物だ。
天涯:取っていたんだな……こんなに大事に……――その書きかけの原稿と手紙、家族写真のうち美都と美古都が写っている写真を手に、私はその部屋から消えよう。
そうして、死神でありながら死神では無い男が去っていった。
男が最初に得た感情……
悲しみと共に――

■最終章■

1999年2月、都内某所のとある墓地に1人の男が訪れていた。
時刻はもうすぐ宵闇、落ち行く夕日が周囲を真っ赤に染め上げていた。
GM:では最後のシーンです。
天涯:あれから4年の月日が流れた……。
GM:4年前だったの?
天涯:4年前だ。リプレイでうまく修正しておいて下さい。
GM:了解。
天涯:私は1人で墓参りに来ている。時刻は夕方、目の前の墓石には『藤川』の姓が彫ってある。
GM:そう、それは美都と美古都の墓だった。他のものに比べてかなり良い作りをしている。ただ、どんなに墓石にお金をかけようと、そこに眠っている2人が帰ってくる事は無い……。

天涯:久しぶりだな2人とも……やっとここに来る決心がついたよ。

GM:冬の真っ只中、墓地には誰もいません。

天涯:今、私は『不死川京介』と名乗ってコラムを書いて生活している。そうだ……美古都の後を内緒で引き継いだ。雑誌の担当も顔を見た事がなかったせいか、大して疑われずにやっているよ。

――「まだキミの夢には程遠いが……いつかキミの夢を叶えて見たいと思う」

――「あの日から、私は"死の匂い"を自由に感じられなくなった……もちろん、完全に感じられなくなったというわけじゃないが……」

――「完全に死神の力が消えたというわけじゃない……でも、それはそれで私は納得している」

――「私は人として生きていく……今はまだ居ないが、キミ達のような存在が私にも再び出来るようになると思っている。その時に、きっとこの力を使わなければならなくなる……」

――「美都……私はキミに会って虚無を失い。その代わりに感情を得た……キミに会えなかったら、私は今を生きる事を知らなかっただろう」

――「美古都……私はキミに会って夢を知った。明日を生きるという事の大事さを教わった」

――「私は…………このまま半端な死神として生きて行くよ………………約束する」
夕日が完全に地平へと落ち。
世界が闇に包まれる。
そんな夜の世界に1人の死神がいた。
いや、かれはもう死神では無いだろう。かといって人間でも無い。
半端な魔物……半魔。
かの者の名は天涯――またの名を不死川京介――と、そう呼んだ。
BEAST BIND 魔獣の絆R.P.G
第1話『虚無の去り音』
FIN
◆登場キャラクターデータ◆
かりそめの名:
   不死川京介(ふじかわ きょうすけ)
表の職業:売れない小説家
         年齢:28歳  性別:男
能力値:【知性】6 【感情】6 【肉体】3
絆:【知性】
   【感情】
   【肉体】

住居:




技:
【知性】<情報><知識:死霊><職能:文筆>

【感情】<心理><プロファイリング>
【肉体】
魔の名:
   天涯(てんがい)
アーキタイプ:死神
         魔の齢:512  魔の性:男
能力値:【知性】6 【感情】3 【肉体】7
エゴ:【知性】生命に死を与える(使命)
    【感情】心の動揺をみせたく無い(禁忌)
    【肉体】虚無を失った喪失感(欲求)

武器:八絃<はっこう>
(2D6/ショートレンジ/通常)
防具:なし(0+修正値)
イニシアティブ修正:なし

業:
【知性】<時間停止><恐怖><影分身>
     <クラインの壷>
【感情】
【肉体】<死の鎌使い><影のように><影斬り>
     <影渡り><影潜み><影踏み>
【特殊】≪神出鬼没≫
担当PL:西蓮
解説:怪奇雑誌『万年怪奇』にコラムを持つ売れない小説家。貧乏な安アパートに住んでいる。普段は和服姿で出歩き、ご町内ではちょっとした有名人である。普段から冷静で静かなだけに、冷たい人だと思われているが実は世話焼きな面がある。
  死神の力を持って自分の大事な隣人を守る……そう4年前に誓ったが、感情の煩わしさには慣れておらず、時々虚無を懐かしむ。死神としての習性からか動揺を悟られまいとするのだが、基本的に隠す事ができずに周囲にばれてしまう。それが不死川の不死川らしい所である。

★ビバ雑記★

 余ったページを作者が自由に落書きする……そんな夢みたいなページを作ってみます。そう、ここの事です。飽きたらやめちゃうかもしれないし、やめないかもしれない。数回取材に行って書かない時があるかもしれない……でも、余ったページなので作者の自由です。
  さて、今回から始まった「BEAST BIND 魔獣の絆R.P.G」(以下ビバと略します)のキャンペーン。いや、正確にはシェアワールドキャンペーン? 別に主人公が決まっているわけでも、PLが固定されているわけでもないですし……ま、GMもPLも好きにやりだした単発をリプレイに録っていると言う感じです。そう、いつもの虚読のリプレイとは違って、これは完全に「自分達がやりたいから」やっているリプレイです。だからルールのフォローも無いし、世界観のコラムもありません。新作や人気システムでもなく(もっと言うとこの旧ビバは絶版です!)、リプレイでアップしても誰の役にも立たない、TRPG業界の役にも(他のシステムに比べれば)少ししか立たない。まさにこれはエゴの象徴たるリプレイでしょう。そんなビバですが、筆者や虚読のスタッフは大好きです。たまにはプライベート感覚で、好きなTRPGを遊ぶのも良いでしょう?
  思えば最初にビバに触れたのは、これが発売されて間もなく……9月の末日でした。とある1人がビバのシステムを持ってきて、新作だからやりましょう! とPLを集めたのです。もちろんGMもPLもみんな初心者、シナリオは基本ルールブックに乗っている「エレベーターの話」、参加PLは私を含めて3人で、各々が自由に選んだアーキは「吸血鬼」「死神」「地獄の道化師」の3体でした。そして初めてのビバセッションが開始されます――(第二話に続く)


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