ダブル+クロス The 3rd Edition あの懐かしかった秋のひと時を、俺は忘れない。 今はバラバラになってしまった4人が、音楽をやろうと盛り上がった……。 あの懐かしき日々を。 ―― ダブルクロス 3rd リプレイ ―― 天道如月の ■第二章 野々宮雪編 〜赤羽村〜■ ◆過去の親友
「11月も半ばのこんな時期ですが、皆さん仲良くして下さいね」
そんな説明で担任があたしを紹介する。 都会から来た転校生。それだけでこの田舎者たちは瞳を輝かせてあたしを見る。 だが、あたしはここで友達をつくる気はなかった。 親しくなれば……それだけ別れが辛くなるから。 あたしの思惑通り、2週間も経てばクラス中があたしに距離を置くようになった。 『都会から来た澄ました奴』 それが、あたしに対する評価だった。 それで良い……それで何も問題無いはず……。 しかし、一本紅葉の下で話した天道如月という村の高校生。 その幼馴染で優等生の立花千歳。 そして最初から物怖じせず友達になろうと言ってくれた美波泉水。 この3人と出会って、あたしの心は揺れていた。 もう友達は作らない、そう決めた数ヶ月前を思い出す…… ――都内、白樺高校。 音楽コンクールに向け部員全員が一丸となって課題曲と自由曲の練習に明け暮れる毎日。 「大丈夫、雪ならできるって! 雪のピアノ、期待してるからね!」 そう言って何度背中を叩かれたことだろう。 親友の恵美の手は、いつでも自分の背を押してくれるのだ。 そして練習の成果を発表する日がやってくる……音楽コンクール、当日。 GM:雪のシーン、何かやりたいことある?
しかし、肝心の演奏で雪は失敗してしまう。
雪:控室に戻って来てからみんなの視線が痛いです……。完璧な演奏ができなかったという悔しさが隠せてないようです。ピアノ伴奏を担当する雪の失敗は、実際に演奏していた部員の誰もが気が付いた。 それは今まで共に練習して来た仲間だからこそ、その失敗に気が付いてしまったのだ。 結局、他の部員たちが必死でフォローしたかいもあり、演奏自体は拍手によって終わったが……。 GM:他の子も雪を責めたいけど、伊藤さんの親友なので言葉にして責めるわけにもいかず……とかそんな感じ――「雪ちゃん気にしないで」「大丈夫、また来年頑張れば良いって」「そうそう、失敗は次に生かせばいいんだからさ!」 如月:コンクールは結局どうなったんだろう? GM:千歳達の辻褄もあるし、コンクール自体は白樺高校の優勝で幕を閉じたんだと思う。だけど、部員達は完璧な演奏じゃなかったとみんなが解っていた……そんな所かな。 雪:最後の最後での失敗、来年こそってみんなが言ってくれた次の日には転校して行ったあたし……。 雪:今、赤羽村で一人暮らししているアパートの一室に帰って来て、壁に背を預けて座っています。 GM:窓からは赤い夕陽の光が差し込み、部屋を染め上げて行く。 雪:足は投げ出し、片手には携帯。 その携帯がメールの着信を告げるんです。 GM:そのメールは伊藤恵美ちゃんからだね、いつもの近況連絡と共に最後に――『そっちの方でどう? ちゃんとピアノやってる?』 雪:……メールを読んでから携帯をパタンと閉じて何も言わず胸に抱きしめる。伸ばしていた足を抱えるように、顔もうずめて嗚咽を漏らします。
一人赤い部屋で、雪の嗚咽だけが小さく響いていた……。
◆音楽の時間
その日の4時間目の科目は音楽だった。
GM:今日の授業、4時間目は音楽です。小中高と合同のこの学校にも、特別に音楽の授業を行う部屋がある。 都会のとは違い、防音設備により仕切られているわけではない。 重たい楽器――主にピアノ――が設置してある部屋が、通常の教室では無いという話だ。 雪:音楽か……ピアノを見て一瞬立ち止まります。 GM:音楽室に移動しての授業です。 如月:ピアノを見ている転校生の前で、さらっと言おう――また千歳はピアノ弾くんだろう?(笑) GM:「ちーちゃんは何でもできるしねぇ」――とクラスメイトも。 イズミ:雪ちゃんに近寄って説明しよう――あのね、ちーちゃんは何でもできるんだよ? お料理も勉強も、ピアノだってとっても上手いんだ♪ 雪:へぇ〜って見てよう。 如月:イズミがそっちに行ってるなら近づいて行くかな――なぁ、あんたはなんかできないのか? 雪:あたしはピアノをじっと見詰めつつ――昔、やってたけど……。 如月:へぇ〜、すげーじゃん! そんで何ならできるんだ? イズミ:視線を追って――もしかしてピアノ弾けるの? 雪:少しだけ。上手くは、ないから……。 千歳:私もそちらへ行きましょう――本人は忘れていても身体は覚えているものですよ? 野々宮さん、ちょっと弾いてみませんか? 如月:いいじゃん、とりあえずやってみろよ? イズミ:イズミも雪ちゃんのピアノ聞きたいなぁ♪ 雪:で、でも。――と言いつつ、千歳の取り巻きとかに、いつの間にかピアノの前に座らされてる気がする。 GM:そうだね、取り巻きも『スカした女』って雪のことを思っていても、苛める対象は別にいるし、千歳が言うならその意を汲んで動くしね(笑) イズミ:きっとイズミはピアノの周りに入れず、少し離れたところにポツンとしてると思う。 如月:俺は気にせずピアノの周りに集まってるかな(笑) 千歳:私は野々宮さんを連れてピアノの横ですね。 GM:先生も――「弾けるのなら弾いてみたらどう? 先生も聞いてみたいな」 雪:先生が、そう言うなら、少しだけ――どきどきしつつピアノを弾こう。 GM:実際に判定して良いよ。 雪:<芸術:音楽>で判定かな(コロコロ)クリティカルして出目が16。技能レベルを足して合計20。 千歳:20!? GM:クラスメイトも息を飲みますね。 雪:やっぱりピアノは良いなぁって思いながら弾き終わろう。 GM:クラス中の誰もがしゃべらない。誰もが雪の演奏に聴き惚れていたから。 如月:その静寂を破って言おう――なんだよ、すげーピアノ上手いじゃないか(笑) GM:その一言で一斉にクラスメイト全員が喝采! 如月:微妙に興味無かった連中も、みんな雪とピアノの周りに集まり始めます。イズミは押しのけられますね。 イズミ:ですよねー(笑) GM:今やクラスメイト全員が雪の周りに集まり輪を作っている――「すごい! すごいすごい!!」「本当、優しい音色でこっちまで優しくなっちゃった♪」 雪:そ、そんなこと……ない――照れながら頑張ってそれだけ言う。 如月:俺は千歳に――なぁ千歳、このピアノってあのコンクールで聞かなかったか? 千歳:そういえば、野々宮さんが弾いた曲もあの時の決勝で。 如月:やっぱそうか! どうりで聞いた事があると思ったんだ!――転校生の肩に手を置いて――なぁあんた、もしかして音楽コンクールに出てたんじゃないか? 千歳:思い出しました。この曲、あの白樺高校が演奏していた曲です! 如月:白樺! そう言えばあんたの落とした手帳、白樺高校のだったよな? もしかして伊藤恵美さんと一緒の音楽部だったのか!? 雪:……うん。 如月:やっぱり! GM:千歳の取り巻き達も――「白樺高校ですって!」「え、あの音楽で有名な!?」「そうそう、ちーちゃん達にも勝った高校、それが白樺高校だよ!」「本当に!?」――どんどん雪の株が急上昇(笑) 雪:うん……うん……うん……――とテンパリつつ応対しよう。 如月:あんたそんなに上手いなら、俺達と一緒に音楽やらないか? 雪:え? 如月:ほら、この前やってたみたいに俺もギター始めたんだ。千歳はなんでもできるし、イズミもやってみようって言ってる。それに野々宮みたいな上手い奴が仲間になってくれれば心強いよ! 千歳:はい、私も野々宮さんが大丈夫そうなら、一緒にやりたいです。 雪:その優しさが恵美ちゃんと重なって、嫌とは言えないあたしがいる――立花、さんが、言うなら……。 如月:おっけぃ! 千歳:それでは私たちは仲間ですね! 野々宮さん。 いいえ、雪さん! 雪:そ、そうだね……立花―― 千歳:千歳で良いですよ? 雪:えっと、じゃあ……千歳ちゃん。 如月:そこでクラスメイトとかがアンコールを雪に迫るわけです。 GM:ああ、でも先生が――「ほらほら、今は授業中なんだからいい加減にしなさい。 でも、せっかくだから今日の伴奏は野々宮さんにしてもらいましょうか」 千歳:はい、それが良いと思います。 如月:頼んだぜ、野々宮! 雪:……うん、わかった――少し笑顔で。 千歳:ふふ。初めて見ましたね。 雪:え? 千歳:雪さんの笑顔です♪ 雪:それは真っ赤になってうつむくかなぁ(笑) イズミ:そんな楽しそうな雰囲気を、輪を外れたイズミは一人で眺めています。もちろん目は笑って無い。雪ちゃんはイズミと一緒で、仲間だと思ってたのに。
その日の昼休み。
あたしは千歳ちゃんたちのグループと、初めて机を並べてお弁当を広げた。 楽しかった……。 数か月前の楽しかった日々が、その頃の感覚が蘇ってくる。 そしてお弁当を食べながらのガーズルトーク、料理の話題になった時のことだ―― 「雪さん、それなら今日うちに来ませんか? せっかく仲良くなったのですし、都会の味というか、雪さんの家の味付けとか、できれば教えていただきたいなぁって」 一人暮らしだから自分で料理をしていると言ったら、千歳ちゃんから誘われたのだ。 最初は反射的に断ろうとしたが、この心地よさを求める自分の気持ちに嘘を付けなかった。 結局その日の夕方、あたしは千歳ちゃんの家にお邪魔することにした。 ◆お泊まり会
赤い日が落ちる赤羽村。その中心部に由緒ある大きな日本家屋がある。
GM:次は千歳の家に泊まりに来た雪のシーンかな。大きな日本家屋、広い日本庭園、そして厳格そうな和服姿の父親が迎えてくれます。立花家。 血の繋がりが慣習として残るこの村での実質的な実力者であり、現村長の屋敷である。 その敷居を跨ぐと、目の前に広がる旧然とした日本庭園に野々宮雪は思わず立ち尽くしてしまう。 「都会の方には、こういうのは珍しく見えるものかな?」 ハッと振り向けば、立派な髭を蓄えた和服姿が似合う厳格そうな男性が立っていた。 千歳の説明を待つまでも無い、この人こそ立花家当主、立花真悟だった。 雪:あたしのお父さんは、いつも焦ってるというか普通じゃなかったから。こういう人を見るとちょっと憧れるかも。 千歳:学校の友人の雪さんです。今日、一緒にお料理をすることになりまして、できれば泊まって頂こうかと――と紹介します。 GM:「話に聞いていた転校生とは君か」 雪:野々宮雪です。 GM:「都会の方から来たと言うが、それに比べるとこの村での生活では不便なことも多いだろう」 雪:いいえ、村人のみなさんにとても温かくして貰っていますから。 GM:「そうか、何かあったら千歳に言いなさい。今夜も遠慮なく泊まって行くと良い」 雪:はい、ありがとうございます。 GM:ではお父さんは退場します。2人はその後台所でお料理ですね。 千歳:お料理の準備をしながら雑談しましょう。 雪:あたしから切り出そうかな?――千歳ちゃんのお父さん、厳しそうだけと良いお父さんだね。 千歳:それは、ありがとう御座います。 雪:あたしのお父さんも、あんな風に立派な人だったら良かったのに……。 千歳:それはフッと顔が陰りながら――でも、その分、周りの期待が私に向いてしまって。結構、大変なんですよ?――最後はちょっと笑い話っぽく笑顔を作って。 雪:プレッシャーかぁ。 千歳:そういえば、雪さんのご両親はどんな方なのですか? 雪:お父さんは仕事で家にあまりいなかったけど、お母さんは優しい人だった。料理も教えてくれたし、音楽を始めたのもお母さんの影響、かな――父親の話はせず、母親も少し他人行儀に話します。 千歳:そのニュアンスには気が付かずに話を続けますね――そうだったのですね。それじゃあそのお母様に感謝しなくてはなりませんね! 雪さんが音楽をやられていなかったら、こうやって出会うことも仲良くなることも無かったのですし♪ 雪:……うん、そうだね。 千歳:そうそう、雪さんが転校してきて2週間が経ちますけど、この村には慣れましたか? 雪:それなりにはね……あ、そうだ。お昼に聞いたんだけどおいしいパン屋さんがあるって。今度、場所を教えてくれないかな? 千歳:商店街にある渡さんのパン屋ですね。いつもキー君とイズミちゃんと寄ってますから、今度雪ちゃんも一緒に行きましょうよ♪ 雪:如月君か。 やっぱり仲、良いんだね? 千歳:え、ええ。仲が良い、だけ、ですけどね――苦笑しながら。キー君からは友達としか見られてないって気が付いているので。 雪:クラスの中だとけっこうカッコイイ部類だと思うけど。 千歳:え? もしかして雪さん……――ちょっとフフフと笑いながら。 雪:そ、そういうわけじゃないって!? 千歳:そうなのですか?――フフフっと(笑) 雪:そう、そうに決まってるじゃない! そ、それより何? 今日は何を作るの? 千歳:そうですね、それじゃあ私は肉じゃがにしましょう。雪さんは何にします? 雪:まぁ、パスタにしようかなって思ってるけど――パスタを握る手が微妙に動揺して震えてたり、あの学校の裏山、一本紅葉の所で出会ったシーンがリフレインして頭をぶんぶん振ったり(笑) GM:その辺で台所にお母さんがやって来て――「千歳さん、何か手伝いましょうか?」 千歳:いいえ、大丈夫ですお母様。今日は雪さんと一緒に作りますので。 GM:「そうですか?」――ふふふって感じでお母さんは居間に引っ込みます。 如月:なんという家庭環境の違い(笑) 雪:ここまで来ると憧れの領域だなぁ、こんな家庭もあるんだ、良いなぁって(笑) GM:そして楽しい夕食が終わって、お父さんが――「今夜はもう遅い、先ほども言ったが泊まっていきなさい」 雪:そして断れずに泊まる事になるあたし。 GM:そして時間は進み、場面は畳敷きの客間。今日は千歳も雪と一緒に客間に布団を敷いて寝るって感じかな? 千歳:そうですね、その方が友達同士のお泊まり会って気がします。 GM:では寝る前に何か会話があるなら。 千歳:私から話を振りますね――雪さん、本当に……キー君のこと何とも思って無いのですか? 雪:ちょっとは、まぁ、カッコイイかなぁって、思うよ? で、でも、そんなこと、なんとも思って無いみたいな気がするな、あいつは。 千歳:……。 雪:でも、千歳ちゃんも好きなんでしょ? 千歳:も、って事はやっぱり、雪さんも? 雪:ボッと顔が赤くなって――あ、あたし寝るね!――布団をがばっとかぶります(笑) 言うんじゃなかった、言うんじゃなかった!ってぶつぶつ(笑) 千歳:それじゃあ、明日からは友達なだけじゃなく、ライバルですね♪ 雪:え? 千歳:それでは今日はもう寝ましょう。おやすみなさい、雪さん。 雪:……。 如月:なんか千歳には村長に通じる余裕が感じられる。 イズミ:これが育ちの差というもの?(笑) ◆聞いてはいけない密談
優しい友人、理想的な家族、暖かな夕食に、女同士だからこそ楽しい寝る前の会話。
GM:次は雪のシーンです。夜中、キミが目を覚ますと横の布団に千歳がいません。あの過去は全て夢だったのではないか、あの悪夢のような過去は誰か別の人間のものだったのではないか。 そう錯覚させるような……あたしにとって、その夜はそれほど幸せな夜だった。 夜中に、あの話を聞くまでは……―― 雪:千歳……ちゃん? GM:耳を澄ませば、居間の方で人が話す声が聞こえます。 雪:布団から出てそっちに行きます、廊下を音がなるべく立たないように歩いて……。 GM:真っ暗な廊下を明るい居間を目指して歩いて行くと、やがて声がしっかり聞こえてきます。村長と千歳、そして村人と思われる3人の計5人が集まって話しているらしい。 雪:好奇心で聞いちゃいます。
「村長、あんなの……人間わざじゃねぇ! 俺ぁ見たんだ! 巨大な爪痕があったのを……」
GM:千歳も布団に戻る?「俺も見た、渡さんはまるで力任せに引き千切られたかのようだった」 どうやら村で事件が起きたようだった。村人3人が駆けつけて村長に報告しているのだろうか。 「熊の仕業じゃないのか?」 冷静な千歳ちゃんのお父さん――村長の声。 「んなわけねぇ! あんなの熊ができるわけない!」 「村長、あれは違ぇ。あれはとてもこの世のもんがやったとはっ」 村長の声に大きな声で反論する村人達、やがて一瞬の沈黙が部屋を支配すると、今まで黙っていた3人目が口を開く。 「美波のせいだ……」 あたしはその言葉をしっかりと聞き取った。3人目の村人は続ける。 「あの疫病神がいるから、前の事件の時みたいに。村長このままじゃ、前の時みたいに事件は繰り返されるぞ!」 「ああ、今こそ追い出すべきだ!」 「このままじゃあ村が危ねぇ!」 3人目の台詞にすでに熱くなっている村人2人が追随する。 「そんなことありません! イズミちゃんはそんな子ではないです!」 千歳ちゃん……。 「千歳、お前は黙っていなさい」 「でも……」 千歳ちゃんはイズミちゃんをかばおうとしたようだった。 しかし、村長である父親の一喝でそれ以上口を出すことはなかった。 「だいたい前の事件の時も、美波の奴が怪しいと思ってたんだ!」 「あの行方不明事件も最後の犠牲者が美波家の夫婦だったのに、どうして娘だけが今も生きている!?」 「それを言うなら、あの事件の前に一家3人が乗った車が谷底に落ちたって聞いたぞ、それなのに3人とも生きてたって言うんだ。あいつらがバケモノじゃないのか!?」 行方不明事件? 車が谷底に? そしてバケモノという単語、何かがあたしの中で引っかかる。 「今回のことだってそうだ、あいつらバケモノが関わってるに決まってる!!」 「渡さんはあの美波家の娘にも優しかったって言うじゃねーか。それなのに、あいつら許せねぇ!!」 「村長、このままあいつを置いておいたらこの村は……!」 村人たちががやがやと自分達の推論を言いあう中、静かな声が場を支配する。 「落ち着け……だが、言い分はわかった。とりあえず、私も現場を見ることにする」 誰かが立ちあがる音。 「お父様、私も」 「お前はここに残りなさい。子供が見て良い現場では無い」 「……はい、解りました」 部屋から村長たちが出て行く気配を察して、あたしは廊下の角まで戻った。 村人は「村長早く!」と急かしながら、どやどやどやと玄関の方へ足早に去って行った。やがて話し合いがされていた部屋の電気が消える。咄嗟に千歳ちゃんが戻ってくると思い、あたしは極力静かに布団の中へと戻った。 千歳:……いえ、廊下で電話します。 GM:雪は? 雪:布団の中で聞き耳を立てます。何話してるか聞こうかなって。 千歳:『もしもし、私です』 GM:『………………』 千歳:『ジャームが現れました』 GM:『………………』 千歳:『だと思います。パン屋の渡さんが……』 GM:『………………』 千歳:『はい、隣町のUGNも動くと思います』 GM:『………………』 千歳:『父に家で待っているよう言われたので、今日は大人しくしていようと思います』 GM:『………………』 千歳:『よろしくお願いします』――ピっと携帯電話を切ります。 GM:その廊下での電話は雪にも聞こえて良かったかな? 千歳:はい、夜で静かですし距離的にも聞こえると思います。 雪:あたしは布団の中でその会話を聞きつつ、心の中で呟きます――どういうこと? ジャーム? UGN? 千歳:私は寝室に戻ってきて襖を開け……布団に入ります。 雪:寝たフリをし続ける。 千歳:雪ちゃんの寝顔を見ます。ちゃんと寝ているのを確認してから……寝ます。 雪:布団の中で考えます。普通の人で、とっても良い子だと思ってたのに……UGNとかジャームとか専門用語を知ってるし、それに電話をしてる時の千歳ちゃんは別人だった……。
その夜、あたしは布団の中で眠れない夜を過ごした――
昼間、学校で見る千歳ちゃんとは……別人だった……。 あの千歳ちゃんは誰? いったい……何が起こっているの? ◆踏み込めない世界
次の日。
雪:次の日、あたしのシーンがやりたいです。昼休みの終了間際、校庭のすみで携帯を取り出します。あたしが事件を起こしたあと、レネゲイドのことを教えてくれたりいろいろフォローしてくれたUGNエージェントの鈴木さんに電話します。あたしは何事もなかったようにアパートに帰ると、学校の用意をして登校した。 今日は如月君が遅刻で、イズミちゃんも風邪で休みと先生が言っていた。 しかし、あたしの中でイズミちゃんが本当に風邪なのかが引っかかっていた。 と言うのも、朝会が終わったあと千歳ちゃんだけが先生に呼ばれ何かを話していたのだ。 昨日の夜の会合が思い出される。 そして昼休みの終わる間際。 誰もが教室に戻る中、あたしは一人校庭のすみにやって来ていた。 誰もいないのを確認してからポケットから携帯電話と前の学校の学生証を取り出す。 学生書に書かれた電話番号を見ながら携帯をプッシュ、呼び出し音が流れる。 GM:では繋がったことにしよう――『雪さん? お久しぶりね』 雪:『鈴木さん、あたしの引っ越してきた赤羽村で……』――と事件があったことを伝えます。そしてUGNとして動いてくれませんか、と。 GM:『ええ、私たちが動くことに関しては問題ないわ。たとえジャーム事件じゃなかったとしても、裏付けは必要だしね』 雪:『それともう一つ。知ってる人がいたんです』 GM:『知っている人? それはUGN関係者の石原さんではなく?』 雪:『はい、違う、人です。ジャームのことも知ってました……』 GM:『………………』 雪:『あたし、偶然その子が話してるのを聞いて。その単語が出てきて、それで、それで……』 GM:『雪さん。あなたは、どうしたいの?』 雪:『え?』 GM:『私はあなたの希望を聞いて、この世界からあなたが距離を置けるようその村を紹介したの。そこでこのような事件がもし起こっているとしたら、それは申し訳ないと思う。だけど、本当に距離を置きたいのなら、関わらない方が良いと私は思う。でも、もし踏み込みたいのなら……』 雪:『ごめんなさい! 私は、やっぱり、関わりたくない』 GM:『ええ、それならあとはUGNに任せなさい。私もその村で調べるから安心して』 雪:『……はい。お願いします』――ピッと切ります。千歳ちゃんのことを知らせずに。 GM:では鈴木さんとの電話は切れます。 雪:携帯をポケットにしまってから、教室に戻りながら少し考えよう。――この村のUGN関係者は、やっぱり石原先生だけみたいだ。それなのにジャームのことを千歳ちゃんは知っていた。千歳ちゃんは解決する側の人間じゃない? それじゃあ千歳ちゃんは――
――疑惑ガ、フカマル。
◆疑惑
鈴木さんとの電話は、肝心なことを聞けずに切ってしまった。
GM:さて、次はどうする?これ以上踏み込めば、忘れたい過去の世界に再び戻ってしまうような、そんな気がしたから……。 しかし、あの夜の電話を聞いてしまった以上、多少なりとも自分の中で納得もしたかった。 雪:聞き込みをしたい。 GM:事件に関わるの? 雪:事件には関わりたくないけど、ここ(千歳ちゃん)が怪しすぎて、そのことを調べたいなって。 GM:なるほど、ではどんなシーンにしますか? 雪:学校裏の一本紅葉、そこに如月君だけ登場して欲しいです。 如月:OK、じゃあ紅葉のところに来て――なんだよ、人をこんな所に呼び出して。 雪:千歳ちゃんのことで、ちょっと聞きたくて。 如月:千歳の? 雪:うん。……千歳ちゃん、いつも一緒にいるわけじゃないんだね。 如月:まぁなぁ、イズミだってバイトでいない時あるし、常に3人一緒に行動してるってのも変な話だろ? 雪:そっか、イズミちゃんはバイトなんだ。それじゃあ千歳ちゃんは1人の時、何をしてるの? 如月:千歳が1人の時? そういえば何だろうな。あいつがバイトするわけねーし。 雪:知らないんだ。 如月:うーん、まぁ、あいつ村長の娘だし、そういう村の会合とかに参加してるんじゃねーかな? 確かにときどきいなくなるけど。 雪:村の会合――それを聞くと昨夜の秘密会合を思い出す。イズミちゃんが犯人だと迫ってくる村人との話し合い。あれは普通では考えられない悪習だと思うから。 如月:野々宮こそどうしたんだよ、そんなこと聞いてさ。 雪:……。 如月:なんだよ、気になる事があるなら相談に乗るぜ? 雪:本当に? 如月:ああ、何でも言えよ? イズミ:主人公だなぁ(笑) 千歳:ですね(笑) 雪:実は……昨日、あたしは千歳ちゃんの家に泊まったの。そしたら、夜中に村人数名と千歳ちゃん、それに村長さんで、ある話し合いがされているのをたまたま聞いてしまって。 如月:ああ、それがどうしたんだよ? 雪:……言ってたの。事件が起こった、この事件は美波家のせいだ、だから美波家を、イズミちゃんを追いだすべきだ、って。――言いながらとても怖いことを言ってると実感してきてガタガタ震えだします。 如月:そりゃあ、イズミはちょっと村人からは嫌われてるけど。 雪:あたし、怖くなって、布団に潜って何も聞かなかったことにしたのに。 如月:でも、千歳だって村長の娘だし、そういう話し合いに出るのは仕方ないんじゃないか? イズミのことだって、この村じゃ当たり前のことっちゃ当たり前だし――俺的にはその情報だけならギリギリ普通のことかなって思うな。UGNとかジャームとかの単語が出てくると別だけど。 雪:でもその単語は一般人の如月君には言えないし――「じゃあ、どうして事件のこと知ってたのに、千歳ちゃんは学校で私たちに言ってくれなかったの? イズミちゃんのことだって。昨日の夜、何があったか全部知ってたはずなのに」 如月:イズミのことは、確かにな。友達のことなんだし、俺達には言ってくれてもいいのに。 雪:担任の先生は「イズミちゃんは風邪だ」って言ってたけど、あのあとすぐに、千歳ちゃんだけ先生に呼ばれて何か2人で話してた……もしかしたら……。 如月:俺が来る前にそんなことが……ったく、そんなに言うなら確かめようぜ! もうすぐ学校も終わるし一緒にイズミの家へ行こう。 雪:イズミちゃんの家へ? 如月:ああ、村人達だってすぐに追い出すようなことはしないと思うけど、気になるしな。 雪:……わかった。 如月:千歳のやつにも―― 雪:ううん、千歳ちゃんに言うのは、やめた方が良いと思う――強い口調で言います。 如月:まぁあいつも忙しいだろうしな、わかった。イズミの見舞いには俺達2人で向かおう。 雪:コクリと頷きます。 ◆開かずの間
学校が終わるとすぐに、千歳ちゃんは何か用事があるとか言って一人で先に帰って行った。
GM:次はイズミの家に行くシーンですね。そして秋の赤羽村を如月君と2人で歩く。 足の下に入り込む紅葉の葉が、まだ水分を保っているのかズサズサと重い音を立てる。 結局、イズミちゃんの家につくまで、私たちは何もしゃべらなかった……。 雪:千歳ちゃんは用事があるとかでいなくなりました。疑いの眼差しが一段階アップ(笑) 如月:そんな疑心暗鬼な俺達は、イズミの家に行くまでの道もほとんど会話が無い(笑) GM:ではそんなピリピリしたムードのまま、村外れに美波家が見えてきます。 イズミ:トタン屋根のボロ小屋ってことで。 GM:家の裏は林になって、玄関の扉は曇りガラスの横開けです。 如月:おーい、イズミー! 大丈夫かー? イズミ:その声を聞いて玄関に駆け寄りガララっと開けます。 如月:よっ、見舞いに来たぜ? イズミ:キー君!!――思わず抱きつく(笑) 如月:それは冷静に引き離そう(笑)――イズミ、なんかあったのか? イズミ:目を真っ赤に腫らしながら……――あのね、渡さんが殺されて、イズミ、犯人扱いされて捕まってたのっ。 如月:追い出されるって所までは行かなかったのか。 イズミ:それで、それでね。なんか犯人は別にいたみたいで、お昼過ぎに解放されたんだ。 雪:犯人が、別に……いる? イズミ:うん、サングラスした女性の刑事さんが味方になってくれて。 如月:そう言えば俺も事情聴取されてる時、最後にやってきて話したのもサングラスの女性だったな。とか思いだそう。 イズミ:キー君、雪ちゃん、とりあえず上がって! 何も無い所だけどお茶は出せるから♪――居間に通します。丸いちゃぶ台が1つだけ置いてある。 GM:そういえば両親の部屋ってここじゃないよね? イズミ:あれはちょっと奥まった所かな? 今は開かずの間として残ってます。 如月:開かずの間(笑) イズミ:決して開けてはいけない部屋です。畳や襖を変えるお金も無いし……。 雪:ちゃぶ台の周りに座ってイズミちゃんに聞こう――どうして犯人扱いされたの? 如月:それは村人の偏見でって思うけど、黙っていよう。 イズミ:素直に全部話すよ? バイトの前に渡さんとお話してたこと、村を出るバスを途中で降りたこと、その時間のアリバイが無いこと。 如月:なんで途中でバスを降りたんだよ? ちゃんとバイトに行ってればアリバイだってちゃんとあったし、疑われることなかったんじゃないか? イズミ:うん、忘れ物しちゃって……。 如月:それは納得しそうだ(笑) 雪:普通の理由だと思う。 如月:まったく、忘れ物なんてするから余計に話がややこしくなるんじゃねーか。 イズミ:どうしても、必要なものだったから……。 如月:ま、お前が疑われたって言うけど、あんなの人間の仕業じゃねーよ。 イズミ:え? 如月:俺は昨日の夜、実際に渡さんが死んでるのを見たんだ。すごい鋭い爪で上半身と下半身を真っ二つにされて死んでた。 あんなの人間ができることじゃない。 イズミ:人間、じゃない、か。 如月:きっと熊さ! 俺はあれを見た瞬間そう思ったね(笑) 雪:それにはあたしも反芻するかな。――熊……か。 如月:ちょっと静かになっちゃうかな?――なぁイズミ、お茶出してくれるんじゃなかったのかよ? イズミ:あ、いけない忘れてた! すぐに持ってくるから待っててね!――台所に行きます。 如月:おう、頼むぜ(笑)――と空気変えてみました。 GM:そのタイミングで雪はトイレに行きたくなるのですよ(笑) 雪:じゃあ――ねぇ、トイレはどこかな? 如月:トイレなら廊下を突き当たって右だぜ?――とか教えよう。何度か来たことがある(笑) GM:そしてトイレを終えて戻ろうとした時、雪はふと廊下の突き当たり……トイレの逆側にある左の部屋が妙に気になる。 イズミ:そう、そこは開かずの間……キー君達も見たことが無い部屋。 雪:それは、見ちゃおう(笑) すっと好奇心から襖を少し開けてみます。
その襖を引いた瞬間、ふわりと古い鉄の匂いが鼻腔をくすぐる。
イズミ:ダンッ!!――と横から襖を閉めます。そこは、雨戸が閉められているのか暗い部屋だった。 しかしその畳みや壁に妙な黒いコントラストが浮かぶ……あれは―― 雪:っ!?――びっくりしてそっちを見る。 イズミ:雪ちゃん……どうしたの? こんなところで。 雪:イ、イズミ……ちゃん。 イズミ:ダメだよ、勝手に人の家の部屋を覗いちゃ。 雪:ご、ごめん。ちょっと、気になって。 イズミ:そっか、ウチってこんなボロ屋だし、都会者の雪ちゃんには珍しいか。ゴメンね。 雪:……。 イズミ:お茶、入ったよ?――笑顔だけど瞳だけは笑っていません。 雪:ゾっとします。イズミちゃんと2人きりのこの状況が何より危険な気がして、心の中の警戒音が鳴りやみません! GM:部屋は見えたことにする? イズミ:じゃあ黒ずんだ血の痕と、少し何かで引っ掻いたような壁の痕がチラっと見えたことに。 雪:心臓が口から飛び出しそうなほどドクドク言ってる。さっき見た部屋の風景と、目の前の笑顔の張り付いたようなイズミちゃんが、ぐるぐると頭を……。 イズミ:ほら、キー君も待ってるし、一緒に戻ろう?――先に居間へと向かいます――ほら、早く? 雪:慌てて、でも一定の距離を置いてイズミちゃんの後ろを歩いて、居間に行きます。 イズミ:はい、キー君、こっちは雪ちゃんね――2人と自分用のお茶をちゃぶ台に乗せます。 如月:ずずーっと普通に飲もう。 雪:まったく手を付けません。 如月:まーとりあえず、イズミも釈放されたなら良いか。明日は学校で大変かもしれないけど、俺もなんとかフォローするからさ。 イズミ:ありがとうキー君、イズミ達、いつまでも友達だよね? 如月:当たり前だろう? なにかあったら俺や千歳に言えよな。 イズミ:うん♪――そして雪ちゃんに向き直って。 雪:!? イズミ:雪ちゃんも、いつまでも……トモダチ、だよね? GM:こ、これは普通に怖い。あのシーンのあとだし。 雪:………………。 如月:当たり前だろう? な、野々宮! 雪:う、うん……。 如月:じゃあそろそろ帰るか。 イズミ:玄関まで送って行って――キー君も気を付けてね。 如月:そうだな、あんな事があったあとだし、野々宮のことは俺も家の近くまで送って行くさ。 イズミ:………………そう、良かったね?。雪ちゃん。 雪:今の間は何!?って思うけど……――うん、イズミちゃんも、気を付けて、ね。 イズミ:うん、ありがとう♪ それじゃあ、また明日! 如月:ああ、明日な! 雪:うん……明日、ね。 ◆赤羽村
村長の娘で、誰にでも優しく人望もある。けれど、何か事件に関わっているような気がする千歳。
雪:自分の部屋に入って、携帯で鈴木さんに電話します――もしもし。村の爪はじき者だが、常に正直で信頼できる友達。けれど家で見てしまった血の痕、美波泉水。 雪はアパートの前で如月と別れ、部屋のカギを開けようとした時、ふと振り返る。 村を囲む山、その全てが血のように赤く染まっている。 「そんなわけない。だって夕日は向こうからしか……」 そこで雪はハッと気がつく。 この赤は……紅葉だ、と。 そして胸の中の警鐘が、鳴りやまないまま何かを自分に告げようとしていた。 ――赤羽村。 この村には何かある。 GM:『あら、もうかけてこないかと思ってたけど……』 雪:『どうしても、一つだけ教えて欲しいことがあって』 GM:『私で答えられる範囲でなら』 雪:『この村、赤羽村に関することです。ここは、何か、全てのことがあってるような、あってないような……』 GM:『そう、この村の違和感に気が付いてしまったのね』 雪:『やっぱりこの村は……。教えて下さい、この村はいったい何なんですか?』 GM:『ふぅ。これから伝える話は、私が情報収集した話よ、真実かどうかはあなた自身で判断して欲しい』 雪:ごくりと唾を飲み込みながら聞きます。 GM:『この赤羽村だけど……昔は――
赤羽村――。
GM:『これが、私が調査した村の伝承よ。なにぶん、古い慣習の残る村で、ここまで聞き出すのにも骨を折ったわ』山に囲まれ外界から隔絶された盆地に存在する村は、今でこそそう呼ばれている。 しかし、この村はかつて……屍村……と呼ばれていた。 赤い紅葉の山々に囲まれた盆地の村。 その由来は50年以上前にさかのぼる。 第二次世界大戦中、ここは戦争で頭がおかしくなってしまった狂人を収容する監獄施設だった。 わざわざここに収容する必要があった理由は不明。 ただ、通常の監獄では狂人達を押さえることができなかったと伝えられている。 村一つをまるまる監獄施設とした村。 もちろん、脱走を企てる狂人もいた、理由無く村人である看守を殺そうとする狂人さえも。 そんな脱走者や暴走者を処刑する、その役割を負ったのが……美波家だった。 そしてこの施設を統括する役割を担っていたのが、現村長の家系である立花家だ。 この村の歴史において、苗字にタチという音が入る家はもともと施設の管理者だった家の流れだ。 今でこそ美波家は立花の分家とされているが、実際に同じ血は流れていない。 狂人を殺す殺人許可証を持った美波家の一族を、施設の管理者は内心で恐れ、嫌っていた。 しかし、その役職が必要であることも同時に理解していた。 だから、それを隠すために表向きは立花の分家という肩書を美波家に与えた。 美波家によって殺された狂人者、または脱走を謀った者たちは、村の周囲の山へと埋められた。 やがて山に生えていた紅葉が、死者の血を吸ったように紅い葉をつけるようになる。 死者を埋めた山は、赤い紅葉が咲き乱れる。 紅葉1本の木の下には1つの死体が埋まっている。そう噂がたつのに時間はかからなかったという。 もしそれが本当なら……この村はどれだけの死者に囲まれているのか。 当時の政府が、狂人を……死者を集める目的で作った村ゆえに、ここを屍村と呼んでいたと伝えられている。 しかし戦争も終わり時代が移り変わって行く中、屍という忌名は村人の手によって変えられる。 ――赤羽村(あかばねむら)。 やがて、その音すらも過去を消すかのように……。 ――赤羽村(あかはねむら)と、呼ばれるようになったのだ。 雪:『この話は、村の人ならだれもが知ってる……のですか?』 GM:『年代にもよるかもしれないけど、最近の若い子でも昔話程度には聞いてるんじゃないかしら、実際に美波家が嫌われているのは確かだし、少なくとも村長一家は知っていておかしく無いでしょうね』 雪:千歳ちゃんはやっぱり……って思おう。 GM:『ごめんなさい、こんな伝承のある村だとは知らなかったの……』 雪:『どうして、あたしをこの村に送ったんですか』――ふるふると絞り出すような声で。 GM:『……あなたのお母さんが、その村の出身者だったから……』 雪:え?
思わぬところで母親の名が出てきた。
GM:『父親の関係する土地に転校するより、母親の関係する土地に転校した方が良いだろうと、安易に考えて詳しく調査しなかった私の責任だわ。ごめんなさい、雪さん』そう、わたしの父親は研究者だった。それも普通ではない、オーヴァードの研究者。 超常の力に見入られた父親は、かつてこの村のような怪奇・奇聞を集めて全国を回っていたらしい。 もしその時、この村で母親と出会って恋に落ちたのなら……。 それは、とても辻褄の合う話だった。 雪:鈴木さんの話を聞いて茫然とする。 GM:『もしもし、雪さん、大丈夫? もしもし?』 雪:『あ、はい、大丈夫です』 GM:『とにかく、今起きてる事件とは関係無いはずだから。気にしないでちょうだい』――ピッと電話が切れます。 ◆衝撃の出会い
赤羽村の伝承。母親の出自。
GM:さて、次は事件発生のイベントシーンです。シーンプレイヤーは雪ね。自分とは無関係と思っていたことが、少しずつ関わりを持って背後から迫ってくる。 怖かった。 父親の恐怖から逃げようとここに来たのに……。 まるで、お前は逃げられないと、死んだ父親の声が聞こえたような気がした。 雪:あたしは家の中に閉じこもっています。ガタガタぶるぶる。 GM:では<知覚>で判定して下さい。 雪:(コロコロ)……あ、回った。達成値14です。 GM:何か気になる存在が、キミの家のそばを通って村の中へと向かっていく感覚を受けます。 雪:……どういうこと? GM:ぶっちゃけ、≪ワーディング≫張りながら移動してる奴がいます。 雪:ああ、どうしよう!? 関わりたくない……関わりたくないけど、さっきの伝承を聞いちゃったし、それが誰かを確かめたいっていうのも……。 GM:どうします? 雪:いや、ここは確かめに行く。一応、何かあってもあたしは戦える。それに……このまま何もしなかったら、あたしはいつ殺されてもおかしく無い気がするし。 千歳:殺すなんてそんな(笑) イズミ:うん、逆だよ、気を付けてねって言ってるのに(笑) 雪:その2人が一番怖い!――学校から帰って来たままだから、制服に上を羽織って出て行きます。気が付かれないように追いかけます。
山々は赤く紅葉が燃えているが、村のあちこちにも紅葉があった。
雪:≪ワーディング≫張ってるんだよね。すると、渡さんを殺したバケモノ?やがて紅葉並木の通りに差し掛かると、向かい風とともに紅葉の落ち葉が一斉に吹き付けてくる。 夜の紅葉並木。 顔を覆った腕を降ろすと、並木道の真ん中に2人の人影があった。 1人は中央に立っており、もう1人は立っている人物の足元に……倒れていた。 千歳:村長かもしれませんよ?(笑) 雪:自分で言う!? これは見つかる前に背を向けて逃げるかな。 GM:逃げるのですね。 雪:あ、待って!……そうか、もしかしたら倒れているのが鈴木さんって可能性もあるのか。 如月:ああ、伝承を聞いて周ってたから、目を付けられて殺された? 雪:うん。 GM:どうします? 雪:……逃げる前に、2人の姿を良く見る! GM:倒れている方はどうも首がちょん切れています。立っている方は見た目バケモノです。 雪:バケモノか……それじゃあ誰であるかまでは、解らないのね。 GM:バケモノの正体は判別不可能ですね。ただ、倒れてる方は解ります。これです(如月を指さす)。 雪:え? GM:天道如月です。 雪:そ、それは。一瞬、本当に一瞬だけど、如月が死んでるの見て安心するあたしがいます。 如月:なんでー!?(笑) 雪:ほら、千歳ちゃんもイズミちゃんも村全体も怪しくなってる中、ここで死んでるってことは如月君だけは信じて良かったんだってわかるし。 千歳:そうですね、すでに被害者ですし(笑) 雪:でも、その安心感と共に、その友達を殺されたことに怒りを覚えます。ふつふつとあたしの周りの空気が温度を上げます。 GM:今逃げれば見つからないけど? 雪:ううん、戦う。ここであのバケモノを放っておくわけにはいかない。周囲に炎をまとった魔眼が複数浮き上がり――よくも、よくもよくもよくもっ!!! GM:バケモノは目撃者を消そうと雪の方に飛び掛かるのですが、途中で雪の異能に気が付いて距離を取ります。 雪:動くな。――炎と重力で相手を拘束します。 GM:バケモノは驚きますね。そして理解します、目の前の相手が一筋縄でいかないことに。 雪:右手をバケモノに向けて動きを封じ、左手で携帯を取り出しリダイアル。 GM:かける番号は? 雪:もちろんエージェントの鈴木さんです。 GM:ならその瞬間、バケモノは獣の咆哮を上げて炎と重力の拘束を打ち破ります。そしてそのまま紅葉林の中へと逃げて行きます。 雪:くっ……待て!!――そのバケモノを追います。 GM:では追いかけっこですが、最終的にはバケモノは逃げ切ります。エネミー専用エフェクト≪瞬間退場≫を使用します。 雪:如月、君……。現場には戻りません、朝になったらきっと村人が発見すると思うので。鈴木さんにだけはあったことを報告しておきます。 ◆擦り寄る恐怖
次の日、あたしは学校を休んだ。
GM:ところで雪はバケモノと追いかけっこした次の日、学校行く?戦い疲れていたとか、如月君が死んでいたのがショックだったとか、そんな理由じゃない。 今朝、鈴木さんへバケモノに逃げられたと報告した時のことだ―― 雪:鈴木さんの報告だけ、先に聞いておくかな。特に如月君のことは……気になるし。 GM:なら鈴木さんが現場に到着した時、そこに誰の遺体もなかったと連絡を受けます。 雪:……え? GM:『あなたが嘘を言ってると、そうは思わないけど……事実だけを言うなら、そういうことね』――鈴木さんは電話を切ります。 雪:……どういうこと? あのバケモノが如月君の死体を回収した? GM:まぁ現状だとそれ以外に考えられる選択肢は無いしねえ。 雪:昨晩聞いた、屍村の話が頭をよぎります。もう、何がなんだかわけわからなくなって来た……。 GM:どうします? 雪:とりあえず、昨日はあまり寝れなかったし、今日は無断で休みます。
なんとなく不安だった。
千歳:雪さん、大丈夫ですか? 今日、何の連絡も無く学校をお休みになっていたので。心配でお見舞いに来ました。なぜあのバケモノが如月君の死体を回収したのか……。 赤羽村の伝承が本当なら、如月君はどこかの紅葉の木の下へ埋められるため、死体を持ち去られたのだろうか。 そんなことを考えているうち、徹夜の疲労からかいつの間にかあたしは眠っていた。 ――ピンポーン! 部屋のインターホンの音で目が覚める。時計を見ればすでに夕方になろうという時間だった。 あたしはかなり疲れていたらしい。 ――ピンポーン! 再び鳴るインターホン、あたしは上っ張りを羽織るとドアスコープから外をのぞく。 そこには……千歳ちゃん、立花千歳の姿があった。 心配そうな顔であたしの部屋のドアを見つめている。 正直、居留守を使おうかとも思ったが、この狭い村ではどこにも行って無いのがすぐにばれる危険性がある。 あたしはチェーンロックをしたまま、ゆっくりとドアを開けた。 雪:それは、ゆっくりドアを開けるかな、チェーンロックしたまま。 千歳:こんにちは。良かった、動けはするのですね。 雪:……ちょっと熱っぽかったから……休んだの。 千歳:そういう場合は、先生に一報入れた方が良いですよ? 先生も心配していましたし。 雪:うん、今度からそうする。 千歳:キー君もイズミちゃんも、心配していますよ。 イズミ:そのタイミングでドア前に姿を現そう――やっほー♪ 雪ちゃん元気? お見舞いにみかん持ってきたよ♪ 如月:よぅ、俺は煎餅持って来たぜ?――とお土産で驚かすために隠れてた感じで(笑) 雪:それはあたし的にはビクッ!ってなるんだけど!? GM:じゃあちょっと雪は<交渉>で判定してみよう。達成値があまりに低かったらかなり不自然な対応をしてしまったってことで。他の3人は何か雪を疑わしいと思っていた場合、その達成値を目標に見破る判定をして良いです。 如月:俺達も<交渉>判定? GM:うん、それでお願い。 雪:(コロコロ)……うん、あたしってば名女優、クリティカルして達成値17! 如月:まー俺は疑わないから判定しないけど(笑) イズミ:イズミはやるよ〜(コロコロ)……でも出目が5だから見破れない(笑) 千歳:私もそれに気づかず話してましょう――本当はケーキが良いかと思ったのですが、この村だとケーキを売っているお店って渡さんのところだけでしたので……。 GM:パン屋でケーキも売ってるんだ(笑) 千歳:はい、でも自作するには時間が無かったので、お煎餅とみかんになりました(笑) 雪:ごめん、まだ調子良くないから。気持ちだけ貰っておくね。 千歳:そうですか……。それでは長くいても身体を悪くするだけです、私たちはこれで帰りましょう。 イズミ:うん、そうだね。雪ちゃん、気を付けてね。 雪:何が? イズミ:昨日の夜、また熊が出たんだって。 雪:ドキっとします。 千歳:昨晩は村の顔役の1人である、立木さんが亡くなられて……――名前にタチって入っているので本家筋の一人です。 GM:あったなぁ、その設定。 千歳:雪さんも夜中の外出は控えて下さいね。 雪:うん。 如月:ま、それでもどっか出かけなきゃいけなくなったら電話くれよ、買い物ぐらいは行ってやるからさ。 イズミ:でも、キー君って自転車壊れちゃったんでしょう? 如月:あ、そうか(笑) 雪:自転車が壊れた? 如月:ああ、昨日の夜さ、思いっきり転んじゃったみたいで自転車ベコベコになっちゃって。やっぱ渡さんの見ちゃったせいか、俺も疲れてるのかな? 千歳:そうですよ、キー君も無理しないで下さい。 如月:へーへー(笑) 雪:……大丈夫、心配してくれて、ありがとう。それじゃあね――バタンと扉を閉めます。ガチャ! ガチャ!っとカギを閉めます。 GM:では3人の友達が帰っていく足音が遠ざかります。 雪:それが聞こえなくなってから、やっと安堵のため息をつこう。 GM:ピピピピピピピッ! その瞬間、携帯が鳴ります。 雪:びっくりしつつ、誰からかを確認します。 GM:鈴木さんですね。 雪:それなら出ます――『もしもし』 GM:『雪さん……良かった。無事だったのね』 雪:『え?』 GM:『あなたが昨晩見たジャーム、たぶん最近起こってる殺人事件の犯人、コードネーム『ティーゲル』というジャームだと思うけど、もしそうなら危険なの』 雪:『その……どういうことですか?』 GM:『そのジャーム、どうも目撃者を消す習性があるの。雪さんあなた昨日、そのジャームと会ったのよね。それなら今後あなたが狙われる可能性がある……』 雪:あのバケモノの姿と、怪しい電話をしていた千歳ちゃん、開かずの間の前で警告してきたイズミちゃん、死んだはずなのに生きていた如月君の顔がぐるぐる回ります。 GM:『……さん、雪さん、聞いてる?』 雪:『……あ、はい』 GM:『もしあなたが構わないなら、学校の方への連絡はこちらでしておくわ。すぐにその村から逃げる手はずを整えてあげる』 イズミ:雪ちゃんはこの村から脱出するエンディングもありだよね。 千歳:全てはあの夜から……。 雪:『すぐ、返事しないとダメですか? 別れを言いたい人が、いるから……』 GM:『………………わかった。それじゃあ出発は明日の朝、そういう人がいるのなら今日中に、ね』 雪:『……はい』 GM:『ごめんなさい。本当、あなたをこっちの世界から逃がしてあげたくて、その村に送ったっていうのに……逆に巻き込んでしまって……』 雪:『いいえ、これが……この世界の日常なんだと思います』 GM:『………………また、1時間後にこちらから電話を入れるわね』――ピっと電話が切れます。 雪:部屋の中、一人で膝を抱えながら体育座り。1時間経って連絡がくるのをずっと待ちます。 GM:……が、1時間経っても向こうから連絡が来ません。 雪:え? えと……こっちから鈴木さんの携帯に電話するけど? GM:電源が切れているか電波の届かないところにあります――と通じません。 雪:!? GM:どうします?
――『そのジャーム、どうも目撃者を消す習性があるの』――
雪:鈴木さんの言葉が思い出されます。鈴木さんも昨日の夜、現場に戻ったって言ってたし……その時ティーゲルに見られていたのかも……。GM:かもしれないね。 雪:どうしよう、鈴木さんの次こそあたし……いや、あたしだけじゃなく、もう一人いた。 GM:いるねぇ。でも、彼も怪しさは爆発だよ? 雪:そうなんだよね。この目で首が切れてるのは見てるし……。でも、それは見間違いだったのかもしれない、何もしないわけにはいかない。昨日の夜のことを詳しく聞くためにも、もしもの時はティーゲルに狙われてるって警告もしないといけない……メールを2人に打ちます! GM:誰に? 雪:一人は千歳ちゃんに。呼び出して村の真実と犯人と繋がっているんだろうと告発する。 GM:動くんだね。 雪:このままじゃあたしも殺されるし。 GM:もう1人は? 雪:如月君に! あたしの近くにいてもらった方が守れるし、そうだなぁ、メールの内容はただ1文だけ――
――『あの紅葉の木の下で』
◆あの紅葉の木の下で
学校の裏山、一本紅葉のその場所からは村全体が見渡せた。
雪:それじゃあ学校の裏山、一本紅葉の木の下で村を眺めつつ待ってます。暮れゆく夕日が山の稜線に隠れ、オレンジと薄紫を混ぜたような黄昏時がやってくる。 あたしは一本紅葉に寄りかかり……村を見降ろしていた。 GM:そこからは村全体が見渡せた。暮れゆく夕日が山の稜線に隠れ、オレンジと薄紫を混ぜたような黄昏時がやってくる。 千歳:私はすっと雪さんの後ろに現れましょう。ザッと音がして、雪さんが振り返ると私がいます。 如月:怖ぇぇ(笑) 雪:あなたが、先だったか。 千歳:………………キー君は、まだですか? 雪:それは、あたしが聞きたいわ。 千歳:………………。 雪:………………。 如月:無言の緊張感がハンパない(笑) 千歳:じゃあ、ちょうど良かったです。本当はこんなもの、雪さんに向けたくなかったのですが――拳銃を雪さんに向けます。 雪:………………。 如月:その台詞を聞くと、今までの優等生が仮面に見えてしょうがない(笑) 千歳:ごめんなさい。でも状況がそれを許してくれないから……――付き付けたまま、少し悲しげに言います。 雪:あたしがなんでそんなものを突き付けられなきゃいけないの? 千歳:この村で、今起きてる猟奇殺人事件……こんなこと、つい最近まで全く無かった……全て、あなたが転校して来てから始まった。解りやすいストーリーです。 雪:この村は、もともとそういう事が起こる村だった。それをあなたは知ってるいるはず。 千歳:雪さん、それをどこで。 雪:この村は、全てがこうなるよう仕組まれていた!――バンと横にある一本紅葉を叩きます。今起こっていることの罪を、全部あたしのせいにするつもりのようなので、その怒りが木を揺すり、紅葉の葉を散らします。 GM:風に舞う紅葉の葉、伝承が本当だとしたら、まるで紅葉の木の下の死体が、雪の感情に呼応するかのように葉を激しく散らす。 雪:村長の娘なら知ってるんでしょう? この紅葉の下に、何が埋まっているのか。 千歳:雪ちゃんの問いに対して……私は無言の肯定、ですね。 雪:さらに追い詰めます――あなたの家に泊まった夜、いったい誰に電話していたの? あなたは隠していた、この村の真実を……。あなたは隠せてると思っていた、バケモノのことを! そうでしょう? 千歳ちゃん! GM:少女2人が向き合う中、動くのはただ舞い落ちる紅葉の葉のみ……。 如月:怖いなぁ……。 千歳:あの晩、私の電話が聞かれていたのは迂闊でした。次の日から、私を避けていたのはそういう理由だったのですね。 雪:伝承はやっぱり……真実だったのね。 千歳:どこまで知ってるか解りませんが、村の伝承について否定はしません。ですが、それが犯行の動機になると思ったら大間違いです。 雪:今の台詞だと、千歳ちゃんが犯行に及んだのは村の伝承とは別に動機があるんだよって意味かな? イズミ:確かに。 雪:あたしは拳銃突きつけられているし、何か無いかって周囲に視線をめぐらす。尖っている枝とか。 GM:まぁ、そういうのはあると思うけど(笑) 雪:なら台詞で気を逸らせて、その枝を掴もう――千歳ちゃん、この村の名前は嘘だったけど、紅い羽が舞うっていう意味は、あながち間違いじゃないと思う。 千歳:何をいきなり? 雪:すっと舞い散る紅葉の葉に視線を向けて――だって、こんなに綺麗な紅葉は、初めて見たから……。 千歳:思わずそっちに視線が行きます(笑) 雪:あたしはチャンスと思って鋭い枝を取ろうとするけど――
その瞬間、あたしはぞくりとするような寒気を感じた。
千歳:私はギギギっと人形のように張り付いた表情のまま、雪ちゃんの方を向いて拳銃の照準を付けます。
武器になりそうな枝を取ろうと伸ばした腕が硬直する。 なにかを察して千歳ちゃんの方を見た時、あたしはその寒気の理由を知った。 千歳ちゃんの目は見開かれ、どこか人形のような……人では無いような……――
「あああああああああああっ!!」
第二章 野々宮雪編 〜赤羽村〜――バンッ! 千歳ちゃんの叫び声とともに、拳銃が火を噴きあたしの頭がのけ反る。 脳みそに熱い火打ち棒を突きこまれたかのような痛みが走る。 ゆっくりと、あたしの身体が大地へと横たわった。 しかし、衝撃はそれだけで終わらない。 「あああああああああああっ!!」 ――バンッ! バンバンバンッ! バンバンッ!! 千歳ちゃんの叫び声と共に、あたしの身体がビクンビクンと跳ねる。 ……何度も、何度も。 そう……あたしは千歳ちゃんに、立花千歳に……殺されたのだ。 |