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ダブル+クロス The 3rd Edition

あの懐かしかった秋のひと時を、俺は忘れない。
今はバラバラになってしまった4人が、音楽をやろうと盛り上がった……。
あの懐かしき日々を。


―― ダブルクロス 3rd リプレイ ――

天道如月の
俺がオーヴァードになった理由


■第三章 立花千歳編 〜屍村〜■

◆FAX

私はこの赤羽村で生まれ、赤羽村で育った。
幼馴染のキー君とイズミちゃんと3人で、平和に平穏に、楽しく今も暮らしている。
11月も半ばというその日、村の学校に転校生がやって来た。

野々宮雪。
都会との温度差に慣れていないのか、なにかと人と距離を置く性格のようだが、村の雰囲気に慣れればきっと心を開いてくれるだろう。
かつて父親から、近づくなとキツく言われていた美波家のイズミちゃんとも、今では仲の良い親友だ。

どんな人とでもなろうと思えば友達になれる。
そう教えてくれた小さい頃のキー君を私は今でも尊敬している。

だから、イズミちゃんが野々宮さんに話かけているのを見ると私の心は温かくなる。
少しずつ慣れてくれれば良い、クラスのみんなもきっと誤解しているだけなのだ。
そうやって野々宮さんの転入から2週間あまりが過ぎたある日のことだった――

その日、村で唯一の診療所に隣街からFAXが届く。
老人の咳の調子を診ていた医師の石原が部屋に戻ると、FAXは数枚の資料を床に垂らしていた。

「これは……UGNからの……」
石原診療所――村で唯一の医者が在中する場所であり、UGNの赤羽村支部。
そのFAXは平和だった村に影を落とす、不吉の前触れだったのかもしれない。

GM:それでは千歳のシーンです。学校帰りに石原先生からメールが来ています。
千歳:ごめんなさい、今日はちょっと用事があって……とみんなに断ってから石原診療所に行きます。
GM:では到着しました。ちょっと初老の医者、石原先生が出てきます――「よく来たね立花君、入りたまえ」
千歳:失礼します……それで、何かあったのですか?――部屋にあるイスに座りながら。
GM:「うむ、実はUGN本部からこんなものが回って来てね」
千歳:それは?
GM:死体の写真が何枚かと紙の資料です。
千歳:うっ……。
GM:「おお、すまない。その写真は少々刺激が強すぎたかな?」
千歳:我慢しつつ資料の方に目を通します。
GM:「どうもファルスハーツのジャームが、このあたりに来ているらしい」
千歳:このあたりにですか!?
GM:「コードネーム『ティーゲル』……すでに何人もの人間を無差別に殺しているジャームだ」
千歳:ティーゲル。
GM:「この村にやってくるかはわからないが、すでに隣街での被害が確認されている……それで警戒するよう、連絡が回って来たというわけだ」――石原先生は温かいお茶を持ってきてくれて、自分の分を飲みつつ――「まぁ、この村でレネゲイド事件が発生したことは一度も無い。隣街にはすぐにUGNの戦闘部隊が配備されるという話だ。きっと今回も何事も無く終わるだろうさ」
雪:この村ではそういう事件は一度も?
GM:一度もありません。平和な村ですから。
千歳:じゃあお茶を頂いて、顔を下げたまま言おう――ですが、5年前のあの事件は……。
GM:「ああ、あの連続行方不明事件か……」
千歳:あれも結局、誰が犯人かわからないまま、迷宮入りしましたけど……。
GM:その事件はジャームが起こしたのではないかと判断されましたが、UGNが動く前に事態は収束。ジャームが去ったかまったく関係なく起こった事件だったのか、結局解らずじまいで迷宮入りしました。
千歳:イズミちゃんが完全に村八分にされたきっかけの事件です。
GM:「この村には戦えるUGNはおらん、隣町でこのジャームが捕まってくれれば良いのだがな」
千歳:わかりました。父に相談してそれとなく警戒するよう村に広めてみようと思います。
GM:「そうしてくれると助かる」
千歳:もう、前みたいに、イズミちゃんの両親のような、あんな事件は起きて欲しくないですから。
GM:そうか、千歳はイズミの両親が死んだのはジャーム事件に巻き込まれたと思ってるんだ。
イズミ:ちーちゃん……。

◆秘密の会合

次の日の朝、すでに村では「隣町に通り魔が出た」という噂が流れていた。
昨日のうちに父親に言っておいたおかげで、村人に自然と警戒するよう噂が広まったのだろう。
朝の登校時、キー君が「隣町だろ? 俺達には関係無いさ!」と無邪気な笑顔で言っていた。
私は胸騒ぎを感じたが、それを口に出さなかった。口に出してしまったらその予感が当たってしまうような気がしたのだ。

その日は音楽の授業でちょっとした事件が起こった。
ピアノに興味がありそうな野々宮さんをキー君がピアノの前に座らせると「昔ちょっと触っただけ」と言いつつ私以上に上手にピアノを弾いてみせたのだ。
これには私もクラス中も全員が驚いた。
そして気がつけば野々宮さんの周りにはクラスメイトが集まるようになり、みんな笑顔で接するようになっていた。
この笑顔の輪を、そのきっかけを作ったのはキー君だった。やっぱり、キー君には適わない。

その日のお昼休み、私は野々宮さん……いえ、雪ちゃんを家に誘った。
キー君の次は私が頑張る番。もっと仲良くなって友達になってもらわなくちゃ!
そう……気合いを入れたのは良かったのだが、思わぬ展開になってしまった。

「 雪さん、本当に……キー君のこと何とも思って無いのですか?」
「うーん、ちょっとは、まぁ、カッコイイかなぁって、思うよ? で、でも、そんなこと、なんとも思って無いみたいな気がするな、あいつは」
「………………」
「……でも、千歳ちゃん……も好きなんでしょ?」
「も、ってことはやっぱり……雪さんも?」
「あ、あたし寝るね!」

雪さんと友達にはなれたけど……まさか同時にライバルになってしまうとは。
ちょっとだけ、そういう関係も嬉しい自分がいる。
やはりこういうことは同じような相手がいる方が、やる気も出てくるというものだ。

そうやって幸せな気分で布団に入っていると、深夜母親に起こされた。
部屋を出る時、雪さんを起こしたのではないかと心配だったが、すーすーと雪さんは寝ったままだった。
GM:雪が千歳の家に泊まった日の夜、千歳は母親に起こされて居間に連れてこられます。そこには村長と村の顔役3人が待ってますね。
千歳:あ、わかりました。私は何も言わず父親の斜め後ろに座ります。
GM:村長の正面には村の顔役3名が座り、切羽詰まった様子で話し合いが始まる。
千歳:何を話しているのでしょうか?
GM:どうやら村で事件が起こったらしい。渡さんが殺されたのだけど、それが尋常じゃない殺され方だったとのことだ――「村長、あんなの……人間わざじゃねぇ! 俺ぁ見たんだ! 巨大な爪痕があったのを……」「俺も見た、渡さんはまるで力任せに引き千切られたかのようだった」
千歳:「熊の仕業じゃないのか?」と父が冷静に言ったりするわけですね。
GM:そうそう、それに対して――「んなわけねぇ! あんなの、熊ができるわけない!」「村長、あれは違ぇ……あれはとてもこの世のもんがやったとは……」
千歳:黙って見守っています。
GM:すると顔役3名のうち、1人だけずっと黙っていた人がいるのですが、その人がやっと口を開きます――「美波のせいだ……」
GM:「あの疫病神がいるから、5年前の事件のように。村長このままじゃ、前の時みたいに事件は繰り返されるぞ!」「ああ、今こそ追い出すべきだ!」「このままじゃあ村が危ねぇ!」
千歳:そこで口を挟もう――そんなことありません! イズミちゃんはそんな子ではないです!
GM:村長がビシっと言おう――「千歳、お前は黙っていなさい」
千歳:でも……――と言おうとしますが、それ以上言えなくなって黙ります。
GM:「だいたい前の事件の時も、美波の奴が怪しいと思ったんだ!」 「あの行方不明事件も最後の犠牲者が美波家の夫婦だったのに、どうして娘だけが今だに生きてる!?」 「それを言うなら、あの事件の前に一家3人が乗った車が谷底に落ちたって聞いたぞ、それなのに3人とも生きてたって言うんだ。あいつらがバケモノじゃないのか!?」 「今回のことだってそうだ、あいつらバケモノが関わってるに決まってる!!」 「渡さんはあの美波家の娘にも優しかったって言うじゃねーか。それなのに、あいつら許せねぇ!!」 「村長、このままあいつを置いておいたらこの村は……!」
千歳:ぐっと両手のこぶしを握りしめつつ我慢します。あくまでポーカーフェイスを保ちます。
GM:村人達は動転してるんですね、人間とは思えない殺され方をした渡さんと、バケモノの噂がある美波家、何かに責任と原因をなすり付けて心のバランスを取りたいのです。
雪:その思考は仕方ないかなぁ。
GM:村長は冷静でない村人達を見て言います――「落ち着け……だが、言い分はわかった。とりあえず、私も現場を見ることにする」
千歳:お父様、私も。
GM:「お前はここに残りなさい。子供が見て良い現場では無い」
千歳:……はい、解りました。
GM:「村長早く!」――どやどやどや、って顔役3人と村長は退場します。
千歳:私も居間の電気を消して――
GM:布団に戻る?
千歳:……いえ、廊下で石原先生に電話します。
GM:ああ、それは確かに。では深夜にも関わらず、何コール目かに石原先生が電話に出ます――『はい、石原です……』
千歳:『もしもし、私です』
GM:『ああ、立花君か。どうしたんだいこんな夜更けに』
千歳:『ジャームが現れました』
GM:『なんだって!? もしかして隣町にいたティーゲルがこの村に……?』
千歳:『だと思います。パン屋の渡さんが……』
GM:『それは本当か! わかった、すぐに渡さんの所へ行こう』
千歳:『はい、隣町のUGNも動くと思います』
GM:『ああ、こっちでそのフォローに回れるよう準備しておく。これからキミはどうする?』
千歳:『父に家で待っているよう言われたので、今日は大人しくしていようと思います』
GM:『そうだな、わかった。あとは任せたまえ』
千歳:『よろしくお願いします』――ピっと携帯電話を切ります。その後、私は寝室に戻ってきて襖を開け……布団に入ります。
GM:雪はどうしてる?
雪:寝てます。
千歳:雪ちゃんの寝顔を見ます。ちゃんと寝ているのを確認してから……私も布団に入ります。
せっかく幸せな気分で寝ていたのに……どうして不幸はそういう時に限って訪れるのだろう。
私は隣で寝る雪さんを気にしながら、絶対に友達を守ってみせると心に誓うのだった。

◆ティーゲルというジャーム

次の日の朝、ジャームに殺された渡さんを最初に発見したのがキー君だと聞かされた。
おかげで今日の午前中は隣町から来た刑事に事情聴取を受けることになるとのことだ。
もっとも、隣町の刑事は犯人を通り魔だと思っている、彼らに任せておくわけにはいかない。

そう思いつつ登校すると、朝会の後に担任から呼び出しを受ける。
「さっき美波さんは風邪でお休みって言ったけど、実は重要参考人として捕まったっていう話なのよ」
昨夜押しかけてきた顔役3人の台詞が思い出される。
それにイズミちゃんを捕まえたのは駐在所のヒロシさんとのことだ、ヒロシさんは館林ヒロシというように本家筋の人間で、分家の美波家を嫌っている。顔役達と共謀してイズミちゃんを捕まえてもおかしく無いだろう。

「あなたの方にはお父さん関係でその話が行くと思うけど、クラスのみんなが混乱しないように注意してもらいたいの……」
担任にとって、イズミちゃんが苛められていることは黙認したい要項だ。
立場上は咎める必要があるが、担任もこの村の住人である限り美波家を内心では嫌悪している。
私は笑顔で「わかりました」と返事をすることにした。

学校が終わるとすぐに、私は石原診療所へとやって来ていた。
村で起こった事件、それがレネゲイド事件だとするのなら自分で調べてみる必要がある。
昨夜は父親に止められてしまったが今なら誰に止められることもなく自由に調べられる。
もし本当にジャームだとしたら……友人たちに危害が及ばぬよう、なんらかの手を打つ必要があった。
千歳:石原先生の所に行って、情報収集したいです。
GM:事件の解決のために頑張るポジションだね。
千歳:では<情報:UGN>で『ティーゲル』について調べます。
GM:情報は達成値によって小出しします。一番高い難易度は13です。
千歳:(コロコロ)……低い、財産点4追加して達成値13にします。
GM:全て解りました。まずティーゲル、こいつはジャームです。
千歳:シンドロームは?
GM:キュマイラかハヌマーンかエグザイルが入っていることは確定。あとは不明です。
千歳:肉体変異系のシンドロームである、と。
GM:そしてティーゲルは、元はFHだったのですが、今ではFHから見捨てられています。
千歳:つまり今となっては衝動に任せて動いているただのジャームであるわけですね。
GM:そうです。ちなみにFHには見捨てられていますが、UGNは被害者が拡大しないように追っています。その追っているUGNエージェントは鈴木というらしい。サングラスの女性の画像も入手できます。
千歳:石原先生、この鈴木さんって方は?
GM:「ああ、今日の午前中にはこの村に到着したそうだ。何かわかったら報告して欲しいと言われている」――では最後に達成値13の情報です――「このティーゲルというジャームだが、衝動に任せて暴走していると資料に書いてあるな。特徴は自身を見た目撃者を執拗に殺す、そういう習性があるようだ」
千歳:つまりティーゲルを目撃した者は……殺される?
GM:はい。上手くその癖を使えば、ティーゲルをおびき出すことも不可能ではないですね。
千歳:もっとも、その為には一度ティーゲルを見つける必要がありますけど……。なるほど、わかりました。
GM:「ま、残念ながら私も立花君も戦う力は無い。ティーゲルの情報をエージェントに伝えるのが役割だろうな」
千歳:そう……ですね――ぐっと拳を握ります――くやしいです。この村で、こんな事件が起こっているのに、それを知っている私たちが何もできないなんて……。
GM:「ああ、歯がゆいものだな」――と石原先生が呟いた所で、先生の携帯がなって何かを話ます――「エージェントからだったよ。渡さんの遺体を隣町のUGN支部へ運ぶらしい」
千歳:……渡さん、すごい、良い人だったのに……。
GM:「………………」
千歳:5年前の行方不明事件の時もそうでした。この村では、良い人から順番にいなくなっていく。
――早く、この不幸な連鎖を断ち切らなければ……。

◆不登校

次の日の学校。
再びキー君が学校を休んだ。もっとも、昨日のことがあるのでそれは仕方が無いことかもしれない。
しかし、今日は雪さんも学校を休んだ。
少なくとも、彼女は休む理由はなかったはずだ……。そう、彼女が休む理由は無い、はずなのだ。
GM:では次の日、学校のシーンです。
イズミ:おはよう千歳ちゃん!――今日はキー君が寝坊っぽいので、2人で登校だね。
千歳:え、ええ。そうですね。
イズミ:それにしても、いろいろ大変だったよぅ。
千歳:どうしたのですか?
イズミ:ヒロシさんに連れられて、やれお前がやったんだろうとか、なんか罵声を浴びせられたりね。……昨日は、誰か知らないけど家に石投げ込まれちゃったし。
雪:投げ込まれたんだ(笑)
イズミ:次はきっとボヤ騒ぎです。
GM:酷い村だ(笑)
千歳:イズミちゃんと並んで歩きつつ――でも解放されたのですね。
イズミ:うん、別に犯人がいるみたいだしね。
千歳:そうですよね、イズミちゃんがそんなことするわけないですし。
イズミ:あったりまえじゃん♪
千歳:でも……村のみんなを嫌いにならないで下さいね、みんな、不安でしょうがないだけなの……。
イズミ:それはちょっと複雑な顔をするけど――大丈夫、ちーちゃんとキー君がいてくれるから、イズミはこの村を嫌いにはならないよ。
千歳:……うん。
GM:ちなみに千歳は昨夜、村の顔役のうち1人がバケモノに殺されたのを知ってます。
雪:さらに被害が出てたんだ。
千歳:そういうことで学校に到着しました。
イズミ:あれ? 雪ちゃんが来てない。
千歳:先生に聞いてみましょう。
GM:それは千歳だけ呼び出されて職員室かな?――「実は野々宮さん、家に電話をかけても出てくれないのよ」
千歳:ご家族の方は?
GM:首を振ります――「仕事の関係か、今は野々宮さん一人だけみたい。風邪で寝込んでるだけなら良いんだけど……」
千歳:それは……。
GM:「最近物騒でしょう。念のため放課後になったら様子を見てきてくれないかしら」
千歳:はい、わかりました。

◆壊れた自転車

そして放課後。
昼に登校してきたキー君と共に、イズミちゃんと3人で雪さんのお見舞いに行くことにする。
雪さんのことを話したら、2人とも心配だからと言ってくれた。
村ではなかなか友達のできないイズミちゃんも、雪さんならきっと友達になってくれる。

しかし、私は別の可能性も考えていた。
今は、あえてその可能性に気がつかなかったことにしていたけど。
千歳:キー君とイズミちゃんに声をかけてお見舞いに行きましょう――昨日の今日ですし、何かあったとも限りませんから。
イズミ:うん、イズミも一緒に行くよ。
千歳:キー君?
如月:ああ、俺も一緒に行くよ。別に用も無いしな。
イズミ:じゃあ3人で一緒だね♪
GM:では雪の家に向かう途中――
イズミ:あ、ちょっと話しておきたいことがあるんだけど。
GM:どうぞ、村を歩きながら話すって感じで。
イズミ:そういえばキー君、昨日はありがとうね♪
如月:ん?
イズミ:ほら、イズミが疑われて学校休んじゃった時、雪ちゃんと一緒にお見舞いに来てくれたでしょ?
如月:ああ、昨日のことか……当たり前だろう?
イズミ:うん。でも、嬉しかったから♪
如月:改まって言うなよ、恥ずかしい奴!――真正面から言われるとちょっと照れる俺(笑)
千歳:なんか仲間外れです。――キー君、そんなことがあったなら、私にも声をかけてくれたら良かったのに……。
如月:ああ、本当はお前も誘おうと思ったんだけどさ、野々宮がお前は忙しそうだからいいって言うからさ。
千歳:それは……まぁ、そうですが……――UGNの仕事でとは言えない私です(笑)
GM:では、そんな感じで歩いてると、如月はあの紅葉並木に通りかかります。
如月:ここ……夢で見た場所か――そういえば自転車ってここで事故ったんだっけ? 軽くそっちの方を見てみたり。
GM:整然と並ぶ紅葉の中、その一角だけ紅葉で乱れている、足元には枝も多く折れてます。
如月:自転車は?
GM:奥に転がっています。ベコベコで、タイヤなんて鋭い何かでスパっと切られたかのように半分になってます。
如月:うっわ、こりゃダメだ、使えねーわ。
イズミ:どうしたのキー君?
千歳:私もイズミちゃんと一緒に見に行きます。
GM:そこには壊れた自転車の前で、諦め顔の如月が。
如月:昨日、ここでこけちゃってさ。あーあ、これじゃあ新しいの買うしかないかぁ。
イズミ:GM、その自転車を見てバケモノにやられたかどうか判断したいです。
千歳:私はUGNの資料とかで、そういう被害者の遺留品とか見ているでしょうし、同じく判定したいです。
GM:じゃあイズミは<白兵>で、千歳は<情報:UGN>で判定してみて。
イズミ:(コロコロ)……14。
千歳:……11です。
GM:それじゃあ解ります。バケモノにやられた痕だね。
イズミ:キー君大丈夫だったの!? そのタイヤ……通り魔?
如月:ああ、珍しいよな。カマイタチかな(笑)
千歳:本当に、本当に大丈夫でしたか?
如月:ん? ああ、大丈夫だぜ? 転んだ時頭打ったのか、あんまり転んだ前後のこと覚えて無いけどな。ははは(笑)
千歳:………………とりあえず大丈夫というので、これ以上追及はしません。
イズミ:イズミも同じく。今は雪ちゃんだしね。

◆屍村

太陽が赤く染まり始める中、幼馴染の3人は帰路につく。
雪さんは思ったより具合が悪そうだった。顔からは血の気が引いておりとても普通じゃない。
そんな雪さんの空気を察したのか、私たちは学校での連絡だけ伝えるとそそくさとその場を後にした。

雪さんのアパートからの帰り道、私たちの間にとりとめない雑談は始まらなかった。
3人ともどこかしら気が付いていたのかもしれない、何かが、起こっていると。
キー君が私たちを家まで送って行くと言ってくれたが、私は石原先生のところに行きたかったので断ることにした。

やがてキー君とイズミちゃんの2人は村外れの美波家に向かって歩いて行く。私はその後ろ姿を眺めつつ、ぐっと拳を握って村の中へと早歩きで戻って行ったのだった。
GM:何かやりたいシーンある?
千歳:やりたいです。石原先生と話したいです。
GM:じゃあそのシーンをやろう。
千歳:雪さんのお見舞いに行ったあと、私は用事があると1人で石原診療所に行きました。
GM:診療所は通常の勤務は休んでいますね。「急病に限り対応します」とか看板がドアに掛かっています。千歳が入って行くと――「立花君か……参ったよ、渡さんの次は立木さんとはね……」
千歳:石原先生に言います――昨日の夜、私の友人がティーゲルに襲われたかもしれません。
GM:「なんだって?」――疑問顔で先生が言います。
千歳:キー君の自転車の件を説明します。
GM:「そんなバカな、その如月君は生きているのだろう。一般人がジャームから逃げ切れるとはとても思わないが……」
千歳:ですが、キー君はバケモノに襲われた夢を見たと言っていました。もしそれが夢なんかじゃなく現実にあったことだとしたら……。
GM:「ティーゲルが、何かの理由で彼を見逃した……か」
千歳:その可能性もあります。そしてもしそうだとしても、ティーゲルの習性からすると……。
GM:「再び狙われる可能性はある……というわけか」
如月:でも俺がティーゲルだったらその仮説は成り立たないぜ?
千歳:え?
GM:………………。
雪:どんでん返し過ぎ!
GM:とりあえず話を続けよう。
千歳:では真剣な、どこか恐怖を孕んだ声で聞きます――石原先生、この事件……本当にただの流れジャームによる事件なのでしょうか。
GM:? 石原先生も首をかしげるよ。
千歳:この村の伝承で狂人を隔離する特別な村だったって話があるじゃないですか。その伝承すらカモフラージュで、本当はもっと深い真相がこの村にはあるのでは……と。
如月:さらなる真相!
GM:と言うと?
千歳:この村は狂人の……では無く、ジャームの隔離施設だったという説です。
GM:おお!(笑)
千歳:先生に言います――知っていますよね? この村がかつて、狂人とは名ばかりのオーヴァード隔離施設だったことを。
GM:「この村に伝わる伝承、それも立花家にのみ語り継がれている黒歴史か……」
千歳:はい、かつてこの村は……――と語り始めます。
赤羽村――。
山に囲まれ外界から隔絶された盆地に存在する村は、今でこそそう呼ばれている。
しかし、この村はかつて……屍村……と呼ばれていた。

赤い紅葉の山々に囲まれた盆地の村。
その由来は50年以上前にさかのぼる。

第二次世界大戦中、狂気と絶望に侵された人間の中に、特異な力を発揮する者が現れ始めた。
日本軍は当初、その軍事転用を計画し特殊能力者を隔離し研究することにする。
しかし、特殊能力者には重大な欠陥があった。

能力の過剰発動による凶暴性の増大、親しい人間を失うことによる能力の暴走である。
すでに窮地に立たされていた日本軍は、その能力を過剰なほど使わせる必要がり、また戦争という境遇がその者達の親しい人々を常に失わせる日常になっていた。
結果、特殊能力者は暴走し化け物となる者があとを絶たず、最終的に計画は無責任にも放棄される。

この村は、そんな特殊能力者、今で言うオーヴァードの隔離施設であり、この村の下には暴走し化け物となった狂人……ジャームの屍が大量に眠っているのだ。
千歳:私たち立花家、またはタチの名を与えられた家はこの施設を管理する特殊な能力者の一族であり、この非人道的な計画の秘密を守ることが使命です。
GM:「また施設で暴走した実験体を処分する為に異能の力を使っていた一族、美波一族を監視する役割もキミの一族の役割だったな……」
千歳:はい、あくまで私たち側の人間でしたが、美波家も実験体を処分する仮定でその異能を使うわけですから……その中から暴走する者が現れるのも日常ごとだったと記録されています。
GM:「ゆえに美波家は分家という立場に置かれ、しかしある程度の距離を置く必要があった。もしもの時に美波家を手にかける必要が、立花の一族にはあったから……」
千歳:そうです。
GM:「しかし、なぜ今更そのような話を?……まさか今回の事件、やはり美波家の者が!?」
千歳:それには首を横に振りましょう。違います、イズミちゃんはそんなことするような子じゃありません。
GM:「……なら、どうして今この話を?」
千歳:5年前、この村で連続行方不明事件が起きました。結局、犯人が不明なまま迷宮入りし事件はお蔵入りしてしまいましたが……この時の村人の反応を覚えていますか?
イズミ:どうだったのかな? あの時からイジメがひどくなったのは覚えてるけど(笑)
如月:イズミの両親が最後の行方不明者だったはずだから、村人は全ての原因をそこに押しつけて強引に納得したんじゃないかな?
GM:そうだね、それが自然な流れな気がする。
千歳:私が言いたいのは、きっと村人達は『うやむやのまま終わったことを受け入れた』ってことだと思うんです。
GM:うん、そうなるだろうね。
千歳:石原先生に言います――もし、5年前の被害者の関係者が、あの時の恨みを晴らそうとしていたら……その恨みは犯人だけでなく、事件を棚上げにした村人全員に向けられていたとしたら……。
GM:その仮説は石原先生も驚きます――「そんなバカな! 今回の事件は流れジャームのティーゲルの仕業だ。そんな仮説、成り立つわけ無いだろう」
千歳:先生、あの事件の被害者のうち、生き残りがいなかったかどうか、もう一度洗い直してもらえませんか?――真顔で聞きます。
GM:「……わかった。UGNのエージェントにあたってみる。ちょっと待ってくれ」――と電話するのだけど、一度電話を切って、もう一度かけ直し……――「駄目だ、繋がらない」
千歳:誰にでしょうか。
GM:「隣街から来ているエージェントだ。いったい、どういうことだ」――石原先生は何度も電話をかけ直します。
千歳:それは……まずいです。私の中の仮説が確証に変わりつつあります。居てもたってもいられません! なにか武器とか無いのでしょうか?
GM:一応、UGN関係だし、引き出しには拳銃あたりは入ってるかな。
千歳:それを取り出して部屋を出て行きます。
GM:「あ、おいっ! 立花君!!」
千歳:無視して走り去ります――そんな……まさか……キー君!
走り去る千歳。
その時、千歳の携帯が震える。
雪:そこであたしから千歳ちゃんにメールが来る。
GM:では千歳の携帯がメールの着信を告げます。
雪:こんな時に……と思いながらメールを見ますが。
――『今夜、裏山の一本紅葉の下で如月君と会います。あなたも来て下さい。 雪』
千歳:じゃあ私はそのメールを見て驚愕します。
世界と隔絶した山奥の村。
そこにやってくる一人の転校生。
彼女は誰とも仲良くなろうともせず、転校の理由も、ここに来る前の事も話さなかった。
そして、平和だった村に悲劇が起こる。
次々と死んでいく村人、現れるバケモノ、そしてその魔の手は……。
千歳:次のターゲットだと予想したキー君を、今夜呼び出す雪さん……。
キー君とイズミちゃんがこの事件に関わっているわけは無い。
それはずっと一緒に育ってきた私には確信できる。
そこにやってきた部外者、タイミング良く起こる事件。
事件の真相に迫ろうとした時、UGNエージェントとの連絡が付かなくなる。
GM:そして如月の身を心配して飛び出した瞬間に入ってくるこのメール。
千歳:GM、さっき雪さんの家にお見舞いに行った時、なにか不自然な点が無かったか思い出して良いですか? 判定したいです(笑)
GM:達成値は17だったっけ?
雪:うん、17だった。
千歳:<交渉>は実は得意なんです(コロコロ)……2つ回って15、これに技能レベルの3を足して18です。
雪:何かあたしが嘘を付いていたような、隠し事をしていたような気がしたのかな。
千歳:思い起こせば、渡さんが死んだ日。あの時、私は雪さんに夕飯を作りながら渡さんのお話をしていた。
――雪「そうだ。お昼に聞いたんだけどおいしいパン屋さんがあるって……
    今度、場所を教えてくれないかな?」
――千歳「商店街にある渡さんのパン屋ですね。いつもキー君とイズミちゃんと寄ってますから、
    今度雪ちゃんも一緒に行きましょうよ♪」
如月:あの時、渡さんの話をしなかったのなら、渡さんが殺されることはなかったのかもしれない。
千歳:確かに……。
雪:そして……あたしのお母さんはこの村の出身。
GM:たぶん転校初日に千歳:には担任の先生が言ってたりするんだよ――「野々宮さんは親後さんの都合でこの村にやってくることになったみたいでね、まぁ、もともとお母さんがこの村出身だったらしいけど……転校生の子はここに来るのは初めてなんだって、千歳:さん、転校生の子がみんなと仲良くできるよう手伝って下さいね?」
雪:それは言われてそう。
イズミ:ちーちゃんの仮説通りだ。
千歳:UGNエージェントに連絡が取れなかったので、雪さんのお母様が5年前の事件の関係者かどうか、その確証は得られませんが……私の動機としては十分です。
雪:ちなみに千歳ちゃん、解ってるか知らないけど……あたし、千歳ちゃんが深夜に電話してた次の日から、まともに千歳ちゃんと話していないんだよ?
GM:そうだ……そういえば2人で話してるシーンなかった!
千歳:話さなかったのは、後ろめたい何かがあったから?
如月:そう言えば他にも疑わしい場所あるぜ? ほら、俺と野々宮でイズミのお見舞いに行ったって話をした時、千歳に言ったじゃん?
――千歳「キー君、そんなことがあったなら、私にも声をかけてくれたら良かったのに……」
――如月「ああ、本当はお前も誘おうと思ったんだけどさ、野々宮がお前は忙しそうだからいいって
    言うからさ」
イズミ:今思えば、不自然にちーちゃんを避けようとする雪ちゃんの行動!(笑)
千歳:私の頭の中でパズルのピーズがぱちんぱちんとハマり完成します。急いで一本紅葉の下に向かいます。キー君がやってくる前に決着を付けるつもりで。
GM:わかりました。

◆赤い羽根が燃える

学校の裏山、一本紅葉のその場所からは村全体が見渡せた。
暮れゆく夕日が山の稜線に隠れ、オレンジと薄紫を混ぜたような黄昏時がやってくる。
山の中を通りその場へやってくると、彼女――野々宮雪――は、一本紅葉に寄りかかり村を見ていた。

だから、私はその背後から近づいて――
「あなたが、先だったか」
ゆっくりと振り返り、私を見つめてくる雪さん……。
周囲を見渡せばキー君がいない、なんとかキー君より先に来れたようだ。

私が拳銃の銃口を雪さんの額に照準を付けると、雪さんは慌てたように話しだした。
この村の由来、狂人者の隔離施設、どうやら彼女は村の伝承を知っているようだった。やはり母親から聞いたのだろう。それ以外に彼女が知る術は無いのだから……。
雪:そういえばあなたの家に泊まった夜、いったい誰と電話していたの? あなたは隠していた、この村の真実を……。あなたは隠せてると思っていた、バケモノのことを! そうでしょう? 千歳ちゃん!
GM:少女2人が向き合う中、動くのはただ舞い落ちる紅葉の葉のみ……。
千歳:あの晩、私の電話が聞かれていたのは迂闊でした。次の日から、私を避けていたのはそういう理由だったのですね。
雪:伝承はやっぱり……真実だったのね。
千歳:どこまで知ってるか解りませんが、村の伝承について否定はしません。ですが、それが犯行の動機になると思ったら大間違いです。
如月:そうか、千歳的には雪は伝承を理由に言い逃れしようと思ってるのか。
千歳:ええ、そういう伝承のある村なのだから、自分は関係無い……みたいな。
イズミ:確かに。
雪:千歳ちゃん、村の名前は嘘だったけど、紅い羽が舞うっていう意味は、あながち間違いじゃないと思う。
千歳:何をいきなり?
雪:すっと舞い散る紅葉の葉に視線を向けて――だって、こんなに綺麗な紅葉は、初めて見たから……。
千歳:思わずそっちに視線が行きます(笑)
GM:そうだ! そろそろ時間的にイズミの家が燃える頃じゃないかな?
千歳:え?
イズミ:まぁ、そのくらいかな?
GM:すると村を見下ろせるって場所だったし、燃えてるイズミの家って見えないかな?
如月:ああ、ここからだと村が一望できるから。それで村外れの火事が見えるのか。
イズミ:村外れの家なんて、イズミの家しか無いから、すぐにわかるはず(笑)
雪:あたしは村を眺めながら待っていたら、後ろに千歳が現れ振り返った状態だし、視界に入らないかな?
千歳:すると見えるのは私ですね。
GM:うん、雪に言われて視線を外すと、村外れの赤い火が見える。あそこにあるのは……そうイズミの家だ。
如月:さっき千歳は、俺がイズミを送って行ったことを知ってるはず。そしてティーゲルの習性は目撃者を殺すこと(笑)
千歳:え、では、ここに呼び出されたのは、これを見せるため? さっきの台詞はこのために? イズミちゃんと……キー君を殺したっていうのを、私に見せるため?
雪:あたしは千歳の雰囲気が違うことを察して思わず動きを止めてそっちを見ちゃう。
千歳:私はギギギっと人形のように張り付いた表情のまま、雪ちゃんの方を向いて拳銃で照準を付けます。
GM:その瞬間、千歳は想い出す。ティーゲルについて調べていた時のことを――
――石原先生「このティーゲルというジャームだが、衝動に任せて暴走していると資料に
    書いてあるな。特徴は自身を見た目撃者を執拗に殺す、そういう習性があるようだな」
千歳:あああああああああああっ!!――バンッと銃を撃ちます。額のど真ん中を撃ち抜きます。
雪:それは頭がのけ反り、そのままドサっと倒れます。
GM:シーン的には、その瞬間、切り絵みたいに変わるんだろうなぁ。
如月:千歳の声と銃声だけが響く(笑)
千歳:ジャームはこれぐらいじゃ死なないのを知っていますし、2人が殺されたと思っているので叫び声をあげながら、何度も引き金を引きます。
雪:銃弾が撃ち込まれるたび、あたしの身体が跳ねます。
よくも! よくも! よくも!!
キー君は何があっても笑顔でいてくれた。
イズミちゃんは困った時は誰よりも先に私を助けに来てくれた。

そんな、そんな大切な、私の友達を……!!
気がつけば全ての銃弾を撃ち切り、カチカチと空しい音を銃が立てていた。
千歳:私は途中で弾切れして、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ――はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……。
GM:千歳は全ての銃弾を撃ち込み、荒い息を吐き出し、動かなくなった友人を見下ろしていた。
千歳:一生懸命、自分は悪くないと言い聞かせてそう(笑)
全ては村のために……。友達の敵なんだ……。だから……だから私は悪くない。
そう言い聞かせながら雪さんの死体から目をそらす。

ティーゲルは死んだ。これでこれ以上の事件は起きないだろう。
私は拳銃を手から放そうしたが、指が氷でできているかのように固まってしまっていた。
仕方がないのでそのままにする。
そして幼馴染2人のことを思い出し、間に合わないかもしれないが急ぎイズミちゃんの家に向かうことにした。
そうやって、私が一本紅葉に背を向けて、山を降りようとした時――
雪:倒れていたあたしが絶叫します――アアアアアアアアッッッ!!――そのまま重力波と炎の爆発で千歳ちゃんは吹っ飛んで下さい。
千歳:一般人なので吹っ飛びました。
雪:立ちあがります。そしてあたしの周囲には炎をまとった重力球、人魂のような魔眼が複数浮かびます。
千歳:うっ……やっぱり、ジャーム相手に拳銃1つじゃ……――上半身を起こしながら。
雪:ねぇ、それ以上、何か言いたいこと……ある?
如月:≪ワーディング≫で動けないんじゃ?
雪:あ、そうか。じゃあ千歳ちゃんだけ動けるようにする。バロールだから周囲の時間を止めて、あたしと千歳ちゃんだけ動ける世界を≪ワーディング≫で作ります。
GM:舞い落ちる紅葉の葉が空中で停止し、時が止まった世界の中、千歳はゆっくりと近づいてくる雪を見る。
千歳:……ジャーム、め。
雪:ふぅ、やっぱり駄目。声すら聞きたくない――≪禁息≫のエフェクトを発動。千歳ちゃんの周囲の酸素を燃やして、しゃべれなくする。
千歳:声が出ないけど、私は話続けますよ――よくもキー君とイズミちゃんを! あなたが、ティーゲルであるあなたが来なければ! この村はずっと平和だったのに!!
雪:パクパク口を動かしているのを見て満足する(笑)
目の前の雪さん――いえ、ティーゲルが壮絶な笑みを浮かべる。
それは圧倒的な弱者を見下ろす視線、猫がネズミをいたぶるような、加虐に満ちた笑みだった。
千歳:苦しくなってきても語ります!――キー君を一度襲ったけど見逃したのは、あなたの最後の良心だと思っていた。だからキー君達には何も言わず私だけで終わらそうとしたのに! 私は知っている、あなたの母親がこの村の出身だったことを! あなたの母親は5年前の連続行方不明で殺された村人の関係者だった。あなたはその話を、この村の伝承を母親から聞いた。だからあなたは復讐にやって来た。母親の遺志を継いで事件を傍観した全ての村人に復讐するために!
ティーゲルはしゃべり続ける私に近づいてくると、私の胸倉を左手で掴んで引き上げる。そして右手に炎を集めはじめる。ゴウゴウと燃える炎が甲高い音を立てながらその密度を増していく。
赤、オレンジ、黄、そして白……次々と変わっていく炎の色が、その温度の高さを物語る。
千歳:私は頑張って語りますよ。雪さんへの最後の悪あがきです――雪さん、今日お見舞いに行った時、あなたは何か隠していた。それは疑われつつあったのをごまかしたかったから。 渡さんを最初に殺したのは、私の家に泊まった時私が渡さんの話をしたから。村の権力者である私の発言から渡さんが死んだと、そうやって最後に私に嫌味を言うため! イズミちゃんと仲良くしてたのもそう、事件のスケーブゴートとしてあなたはイズミちゃんに動いてもらう必要があった、だから仲良くしてイズミちゃんのフォローをしても怪しまれない立場を作った……あたなは……あなたは!!
如月:うーん、千歳の言うことは説得力がある。
イズミ:パズルのピースがパチパチとはまってるもんね。
雪:酸素が無いので何言ってもこっちには伝わりません。最後に――あなたがいけないのよ……おやすみなさい、千歳ちゃん――炎をレーザーのように引絞って、千歳ちゃんの心臓を撃ち抜きます。
白い光線が私の左胸を貫いた。
初めは胸を誰かに押された程度かと思ったが、次第に熱さと痛みを感じて何が起きたか理解する。
悔しかった。
全ての真相を知っていた、事件の全容を理解していた。
でも、私には戦う力が無かった。

「まったく、お前は本当ドジだなぁ。しょうがない、また迷ったら俺達が探してやるよ」
死にゆく私の視界に、なぜか小さいころのキー君が見えた。
「うん、約束! イズミ達3人はずっと友達だもん!」
小さな私を真ん中に、右手と左手はキー君とイズミちゃんが握ってくれた。
夕日に向かって3人で手を繋いで歩いていた幸せだったあの頃。

私は、もうあの頃に戻れないのが、くやしくてたまらなかった……。
第三章 立花千歳編 〜屍村〜

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